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はとものはなし

 

 

倦怠期で別れてしまった風磨くんと〇〇ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


トリガーを引いたのはどっちだったんだろう。

 

 

「もう終わりにする?俺ら」

 

 

とんとん、とリズムよく刻んでいた包丁の音が止まる。不揃いなジャガイモがひとつ、下へと落っこちて。

 


あれ、わたし何作ってたんだっけ?
......あ、そっか、風磨の好きな具材が大きめのカレーだった。

 

 

「...○○もさ、正直その方がいいって思ってんじゃない?」

 

 

長い睫毛を伏せた風磨とは目が合わなくて。
同意を求めるなんて、ズルいやり方。

 


も、ってことは風磨 "も" そうってことで。
わたし "は" 違うけれど。
これまで一瞬たりとも風磨への好きが欠けたことなんてないけれど。

 


今まで一度もうまく伝えれなかった癖に、風磨なら分かってくれてる、なんて。
どうしようもないほどわたしは傲慢な女だ。

 

 

『......そっか、風磨にそう見えてるならそうなんだね』
「...んだよそれ」

 


ほんとうに小さく呟いた声は掠れていて。
やっと視線が交わった風磨の瞳は、薄い赤に染まっていた。

 

 

『風磨、.........ごめんね』
「ばか、謝んなよ、俺がダセェじゃん(笑)」

 

 

何に謝ったんだろう。最後まで素直になれなくて、プライドばっかり高くて可愛くないこと?

 


それとも、風磨をズルいと罵った癖に、...本当はわたしの方が諦めなんてついてない癖に、まるで自分から引くようにみせるわたしの方がズルいこと?

 

 

「俺はさ、○○との2年間楽しかったよ、......だからありがとな」

 

 

風磨、それはさ、わたし "も" だよ。
ポンポン、と頭の上を優しく二度跳ねてからするりと毛先に向かって指が通る。

 


ずっと好きだった、風磨がわたしを撫でる時の癖。

 

 

『っ、風磨......』
「ん?」
『ぁ、...あのね、......その、っ......、』
「ふは、なんだよ、勿体ぶんなっつーの」

 

 

別れたくない、たった7文字。どうしてそれが言えないの、どうして喉の奥が震えるの。

 

 

『......2年間ありがとね』

 

 

嗚呼、わたしは本当に意気地無しの弱虫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからもうそろそろ3ヶ月経つというのに、今日はマフラーが必然な寒さ。あの日の風磨がマフラーを巻いてたっていうのに。なんて、また小さなことから紐付いて彼が浮かぶ。

 


カーテンを少しだけ開けて覗いた窓の向こうは雨。雪が降るって言ってたのにな、深夜からなのかな。

 


面白いテレビも無いから適当にストーリーを流し見しながら暇を潰す。風磨のインスタはあの日から見てなくて。

 


はじめてのミュート機能を彼に使うなんて思ってもなかった。ミュートするくらいならブロック解除してしまえばいいものの、ただのSNSの繋がりにさえ縋ってしまうわたしは成長しないなあって嫌んなる。

 


風磨、あれからどうしてるのかな。髪色また変わったのかな、あそこのスプリングコレクションが出たからもう買ってたりして、ずっと楽しみにしてたライブどうだったのかな。

 

 

『......ちょっとくらいなら大丈夫かな』

 

 

ミュート済みのアカウントに "@fm_" から始まるアカウント。投稿は相変わらず少なくて。

 


髪、黒のままなんだ。......あ、やっぱり買ってる、でも似たの持ってるじゃん。健人くんたちと男子ディズニーも行ったんだ、...ふふ、オズワルドのカチューシャ似合うなあ。

 

 

『.........って、わたしストーカーじゃん』

 

 

...いやいや、でも一応フォローしてるし、風磨もまだフォローしてくれてるし。覗き見って訳じゃないんだからストーカーではないでしょ。

 


そう誰かに言い訳しながら、夕方にフィーリングで買った缶チューハイを冷蔵庫から出す。完全にパケ買いだけど、案外こういうのが当たりだったりするんだよね。

 


プルタブに指を引っ掛けながら、虹色の輪っかに囲まれたアイコンをなんとなく押す。

 

 

『.........っ、え...?』

 

 

ぐらり、と傾いた缶からシュワシュワの半透明が零れる。どくん、どくん、と指先まで鼓動が五月蝿く響いて。

 

 

" いつもピーピーうるさいおチビな××ちゃん お誕生日おめでと、これからも宜しく "

 

 

そんな言葉と共に映るのは、ホールのチョコケーキと幸せそうに微笑む女の子、照れ臭そうに口許を隠して笑う、.........風磨。

 


こんなのどう見たって彼女な訳で、風磨はもう誰かの彼氏な訳で。

 


勝手にあの日から同じものを背負っていると思ってた。風磨も、同じように悔いて悩んで、たらればばかり考えてるって。

 


......背負ってたのは、わたしひとりだった。

 

 

『っ、ふ、...これも、要らない、これもこれも、......っ、いらな、...』

 

 

大きなビニール袋がいっぱいになる。

 


" はい○○、誕生日おめでと "
" え、ありがとう...! "
" ふは、なに驚いてんの?好きなやつの誕生日祝わない訳ねーじゃん "
" これ......、欲しかったやつ、! "
" ん、やっぱ似合うな "

 


光に当たった時、きらきらと反射するのが嬉しくて。何度も太陽に翳したブレスレット。

 


" あ、これ可愛い "
" ペアじゃん、買う? "
" え、ちが、......そういうつもりじゃ、 "
" なんで?いいじゃん、○○ん家に置こーよ "
" !...ん、買う "

 


よくココアを飲んだ色違いのマグカップ

 


" お前今日からこれ着ろ "
" え、なに......、パジャマ? "
" それめっちゃ暖かいらしいよ "
" ...わたしが冷え性だから? "
" ......るせ、着るの、着ないの "
" ッ着る! "

 


照れの裏返しでぶっきらぼうに渡された、女の子らしいパジャマ。わたしがピンク似合うかな?って言ったら、貴方は似合うの知らないの?って笑ったっけ。

 

 

パンパンになったビニール袋を乱雑に結んで、コートも着ずに外へ飛び出す。

 


深夜の2°の世界なんて誰も居なくて。閑静な道にゴミ箱を開ける音がガシャン!と大袈裟に響いた。

 

 

『......ッ、こんなの、もう要らない、!』

 

 

乱暴に投げ込んだ、筈なのに。
手はピタリとも動かない。

 

 

『、なんで、......ッ、なんで、風磨ぁ、...』

 

 

なんで、なんて分かり切ってるじゃない。
最後まで素直になれなかった、わたしの所為。

 


トリガーを引いたのは、わたしだ。

 


ぺたん、とアスファルトに座り込む。冷たさなんてどうでもよくて。濡れないように大切に、欠片を詰めた袋を抱え、涙を雨に隠れさせようと上を向いた刹那。

 

 

『.........雪、』

 

 

ハラハラと落ちるそれは今まで見たどんな雪より儚くて。隠しきれなかった涙は、ただただわたしに雨を振らせた。

 

 

 

 


すっかり濡れてしまった髪にタオルを当てる。ふと、開けっ放しの缶が目に入って。

 

 

『......はは、不味』

 

 

炭酸の抜けたそれは単調でつまらない、わたしみたいな味がした。

 


ドボドボと音を立てながら排水溝に流れるそれをBGMに暗闇でスクリーンが光る。

 


ブロックしますか?の要らない念押しに迷うこと無く "ブロック" を押す。

 


風磨は気付いてくれるだろうか、...なんて思う?少しは気にかけてくれる?それとも何も思わない?

 


なんて、もうほんと、キリがないなぁ。

 

 

 

 


end

 

ダブルベッド day1

 

 

同棲企画1日目。
もしあなたと健人くんが"ダブルベッド"に出演したら。

 

 

 

 

 

 

 


𓂃𓈒𓏸 DAY 1

 

 

高校の頃からやってきた女優さんのお仕事が、漸く芽の先をちょっぴり出して。最近では、主人公の友達という脇役だけど、なんと連ドラにも出させて頂いたり。
そんな中で新たに貰ったお仕事、それは、

 

 

『7日間、かあ.........』

 

 

わたしは今日からこの部屋で1週間、初対面の男性と同棲する。トイレと目の前の廊下以外にはカメラがあって、......しかも夜はダブルベッド、なんて。.........いったいどんな1週間になるんだろう。

 


お洒落すぎるリビングにどーんと置かれた白いソファに身を委ねれば、一抹の不安を掻き消すように1人よし、と呟いた。

 

 

" お邪魔します、......ん?お邪魔しますであってるのかな "

 


耳を擽る少し高いあまめの声。声的に同世代くらいに聞こえて。その答え合わせは勿論すぐ。

 

 

『えっ......、あ、は、初めまして!』
「初めまして、中島健人です」
『○○です、よろしくお願いします』
「こちらこそ7日間よろしくお願いします」

 

 

座ろっか、と微笑むその顔はテレビや雑誌で見慣れた顔で。まさか、ジャニーズの人だとは思わなかった。それもあまり詳しくないわたしでも知ってるような有名な人。
...ますますどんな7日間か想像つかないや。

 

 

「やば、すごい緊張してる」
『えっ、全然そう見えないです』
「今実は心臓ばくばくだからね(笑)」
『ふふ、わたしもです』
「えっと、え、なんて呼び合う?」
『○○って本名なのでお好きに全然、はい、』
「じゃあー...、早く仲良くなりたいから○○って呼ぼうかな」
『わたしは、ん、と、健人さん......?』
「えー!健人くんがいい!あと敬語なし!」
『分かりま、あっ、うん!......んっと、なんか照れるねこれ』
「めっちゃ分かる(笑)」

 

 

誤魔化すように用意されていたジャスミンティーをこくり、と飲み干してしまう。じっと見詰めるその視線は物欲し気。......欲しい、のかな?

 

 

ジャスミンティー飲む?』
「!え、!あ、いや、...」
『パックだからすぐ出来るよ』
「あ......、そっか、そっちか」
『?』

 

 

なんで健人くんの耳の縁がほんのり染まっているのかは分からず。またまたお洒落なカップハーブティーを注げばゆらり、と湯気が空気に溶け込んだ。

 

 

『どうぞ』
「ありがとう、.........あっつ!!」
『えっ、!?大丈夫......?』

 

 

一気に飲もうとするなんて、ふふ、世間一般のイメージであるスマートな完璧王子様以外におっちょこちょいな一面もあるんだ。

 


次は念入りにふー、ふー、と冷ます健人くんは年上なのに可愛らしくて。なるほど、彼を好きな人はこうやって母性本能を擽られるのか。

 

 

「あ、自己紹介しない?」
『そうだね、じゃあわたしから、んー...、年齢は23歳でお仕事は女優業をしてます。まだまだ駆け出しなんだけどね(笑)趣味はお昼寝と映画鑑賞で、』
「待って、お昼寝?趣味だよね?(笑)」
『うん、寝るのだいすきだから』
「今日は寝ないでよ?」
『んもう、寝ません!(笑)えーっと、好きな食べ物はお寿司で、お酒も好きです、......おわり!』

 

 

ぱちぱちと拍手をくれる健人くんは本当に話しやすい。いつもはもっと人見知りな筈なのに、もうこんなに仲良くなれたのは彼の距離の詰め方が上手いからだろう。

 

 

「じゃあ、えー...、年齢は25歳でSexyZoneっていうジャニーズのグループでアイドルやってるんだけど、、知ってたり、?」
『します、もちろんです』
「痛み入ります」
『ふふ、趣味は?』
「趣味は俺も映画鑑賞なんだよね、2人で色んな映画観れたらいいよねここで」
『っ、あ、そうだね、』

 

 

そっか、わたしこれからここで7日間健人くんと暮らすんだ。今更健人くんの言葉に実感する。

 

 

「もう部屋の中見た?」
『ううん、探検してみよっか』
「うわー、なんかドキドキする」

 

 

2人にしては少し広い部屋には、同じくお洒落なダイニング、綺麗なゆったりとした洗面所、何故か透明ガラスのお風呂(......これはお風呂の時間違えて入らないように要注意しなきゃ)、そして、

 

 

『っ、〜〜!』
「おお...、そうだよね、"ダブルベッド"だもんね(笑)」
『はは、そ、だね』
「......1回寝てみる?」
『...うん、』

 

 

何処と無く気まずいような、恥ずかしいような。寝室に漂う雰囲気はこのベッドのせい。

 


ゆっくり倒れ込めばギシ、とスプリングが音を立てて。隣に寝転んだ健人くんの匂いが今日はじめて香る。それは甘さの中に柔らかさと爽やかさが漂う、健人くんらしい香り。

 

 

『どうしよう、今日寝れないかも、、』
「んはっ、ねぇ、そういう事言われたら余計にまた意識しちゃうから!」
『だ、だって、......』
「ん、まあ俺も寝れるか分かんないけど」
『?...あ、わたし寝相だけはいいの!』
「ふはっ、寝相は心配してないよ、ただ隣にこんな綺麗な女性いたら緊張しちゃうなあと思って」

 

 

ちらり、と寄せられた視線に心臓が今日一大きく狂い出す。そんな風にさらっと言うなんて、いくらお世辞でも反則。恥ずかしくなってもごもごと口篭れば、誤魔化すように健人くんに背を向けた。

 


......夜が来るのが、いつもより遅くなればいいのに、なんて。

 


思っても叶う訳は無く。

 

 

『お風呂お先頂きました...』
「おかえり、お水要る?」
『ううん、自分でやるから大丈夫だよ』
「いいから座って待ってて」

 

 

もこもこのハーフパンツから伸びた素足に冷えたソファの革が気持ち良い。

 


夜ご飯のハンバーグ、上手くいってよかったな。思った以上に健人くんが不器用で、ガタガタになっちゃったけど、なんて思い出し笑い。

 

 

「なんか面白いものでもあった?」
『んふ、ハンバーグの形が、』
「いやあれかなりムズいからね?逆に○○が器用なだけだから!」
『え〜、うーん、そうかなあ?(笑)』
「あ、もうこれあげれないわ」
『えっ、嘘です!ごめんなさい!』

 

 

ひょい、と持ち上げられたコップに思わず手を伸ばせば初めて指が触れて。至近距離で見詰め合う。あ、いまわたし、

 

 

「......すっぴんも綺麗だね」
『っあ、あんまり見ちゃ...だめ、』
「えー、なんで?かわいいじゃん」
『、〜〜!恥ずかしいからだめ!』
「じゃあ寝てる時に見よっと、それなら恥ずかしくないし」
『ちょ、健人くん......?!』

 

 

悪戯っ子みたいに笑ってお風呂場に消えた健人くんは頬を膨らませる。渡されたお水を飲んで、ふう、とひとつ溜息。

 


今この瞬間もカメラに映ってるって不思議、視聴者やファンの方はどんな反応だろう、明日はどんな一日になるんだろう.........そんなことを考えてるうちに、寝てしまって。

 

 

「...○○、......○○、」
『んぅ、、』
「んう、じゃないの、こんな所で寝たら風邪引くよ?」
『あ、健人くん...、おかえりなさい』
「もう寝よっか、ベッド行く?」
『......うん、』

 

 

ぺたぺたと廊下に2つの足音が響く。ふわっと香ったのは同じシャンプーの香り。目の前を歩くのはお揃いのパジャマの健人くんで。......同棲って、こういうことなんだ。

 

 

「壁側と外側どっちがいい?」
『どっちでも大丈夫だよ』
「じゃあ俺壁側で、○○のこと落としたら悪いから(笑)」
『ふふ、蹴らないでね?』

 

 

壁側に健人くんが寝転ぶ。わたしも寝なきゃいけないのは分かってるんだけど、指先までドクドクと血が巡って。あからさまに緊張した顔だったのか。健人くんが少し眠そうな、とろんとした瞳の際にクシャッと皺を寄せる。

 

 

「俺もね、緊張してるから大丈夫」
『、っ......』
「ん、どうぞ、」
『お、邪魔します...』

 

 

解すような柔らかな低い声と、捲り上げられた毛布に誘われて、そそくさと身体を滑り込ませる。

 

 

『そっち狭くない?』
「大丈夫だよ」
『えっと、...電気消すね』
「ん、ありがと」

 

 

ぱちん、音と共に暗闇に包まれる。あまり見えなくなった分、香りとか体温、腕が動いた時の感覚とかを余計に意識しちゃう。

 

 

「明日は仕事?」
『うん、20時くらいに帰って来れると思う、...健人くんは?』
「俺も仕事だけど明日は夕方くらいに終わるからさ、ご飯作って待ってる」
『えっ、でも......いいの?』
「期待してて、今日の分取り返すから」
『ふふっ、ガタガタのハンバーグね』
「ねえ○○マジでさ(笑)」

 

 

くすくすと笑い声が響く。他には誰もいないのに、まるでバレないようにひっそりと。

 


暗闇に漸く目が慣れてきたその時、毛布の中でつんつん、と袖が引かれる感覚。驚いて健人くんの方を見れば、そっと唇に人差し指を充てて。

 

 

「そろそろ寝よっか、.........おやすみ」
『ッ、...おやすみなさい、』

 

 

......今の、なんだったんだろう。胸の奥がキュンキュン締め付けて苦しい。仕事、なのに。

 


緊張もあってかなかなか寝付けなくて。健人くんに背を向けるように寝返りを打つ。すると反対側でもゴソゴソと音がして。......もしかして、健人くんも本当に眠れてない?

 

 

" 健人くん、まだ起きてる...? "

 

 

そう問い掛ける勇気はまだわたしにはなくて。

 


カーテンの向こうの世界が白み始めた頃、やっと眠りについた。

 

 

 

 

 

 

キミの誘い方 Ⅲ

 

 

カメラマン○○ちゃんとふまけん3P。激裏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『健人くん、ほんと、誰か来ちゃう......』
「誰かって例えばそうだな、菊池とか、ね?」
『ッ、.........ごめ、んなさい』

 

 

一気に下がった温度に寒気がする。健人くんの膝の上に座ってて、おまけに手は衣装のリボンによって後ろで拘束されてるなんて。関係者に見られたら二度とわたしは現場に呼んでもらえないはず。

 


どうしてこの人はいつも、こうも強引に楽屋でこんな事をしてくるのか。......そもそもなんでわたしみたいな一端のカメラマンに構うんだろう、それにまるで、嫉妬してるみたいに。

 

 

「こんな可愛い顔して俺の下で啼いてたのになぁ」
" 、あ、きもち、けんとく、〜〜! "
『、ぁ、ゃ、やだ、っ!止めて!』

 

 

目の前のスクリーンに映るのは頬を高揚させ快楽に顔を歪ませるわたし。自分のこんな姿を見るなんて羞恥と嫌悪でおかしくなる。
ぎゅ、と目を瞑ればまたわたしを支配してしまう声色が傍で響く。

 

 

「だめ、ほら○○ちゃんが俺に気持ちよくされてるとこちゃんと見て」
『お願い、けんとくん、許して...』
「ちゃんと見ないと許さない」

 

 

そうっと目を開けば満足そうに厚めの唇が歪む。自分のぐちゃぐちゃな姿も、健人くんの荒い息も、意地悪な言葉も、全てあの日のことを鮮明に蘇らせる。

 

 

『、ん、......っ』
「首触っただけなのに敏感」
『...いじわる嫌です、』
「なにそれ、かわいいね?興奮しちゃった?」

 

 

返事をする前に掬うように唇を奪われる。聞くまでもない、ってことだろう。一度だけ優しく触れればどんどん深くなって。上書きするように唇をぺろり、と舐められるだけで身体が跳ねてしまう。

 

 

「このニットいっつもピッタリしててエロいよね、今なんて腕縛ってるからこんなにライン出てる」
『、あ、......ッ、ン、、』

 

 

すー、と細長い指が胸をなぞる。背中の後ろまで到達すればぷちんと箍を外されて。浮いた隙間に侵入した手が少し強いくらいの手つきで膨らみの形を変える。

 

 

「全部上書きするから」
『っだめ、ここじゃ、......ぁ、!』
「でも○○ちゃんのせいでしょ」
『んン、ちがう、から、あ』
「菊池のこと誘惑したんじゃないの、こうやってエッチな声出してさ」
『、ひゃあ、ッ、ん......っ、〜〜!』
「ここコリコリされるの好きだもんね?...はあ、菊池も知ってるとかマジでありえないんだけど」

 

 

痛いくらいに主張したそこを指先で捏ねくり回されて。思わず逃げようとしても腰に回った腕に阻まれる。

 


拘束されたまま強制的に快感を与えられるのは想像より数倍刺激が強い。それなのに風磨のことまで持ち出されたら、あの給湯室での出来事や、2人に抱かれたんだということ、今は健人くんとシてるのに風磨のことを考えてしまってる背徳感と罪悪感。その全てがわたしの頭の中を引っ掻き回す。

 

 

「ココがいちばん好きだもんね」

 

 

器用にスキニーを脱がされれれば先程より脚を健人くんが広げる。そうすれば自ずとわたしの腰が落ちて脚も開く。

 


無防備なクロッチの横からそっと指が入り込んだ刹那。思考の糸が絡まりあって解けなくなれば、焦りが言葉になって。

 

 

『や、だめ、風磨......!』
「............は?」
『、ごめんなさい、違うの!健人くん、ごめ、』
「...出来るだけ優しくしようと思ったけど」

 

 

"そんな必要もなさそうだね"、そう呟いたと同時にいきなり蜜壷にぐちゅん、!と指が差し込まれる。

 

 

『ッ、ひう、〜〜〜!あ、あ、......!』
「まだ全然触ってないのに濡れすぎ、○○ちゃんって淫乱だね?」
『ちが、んンン、っ、!そんな奥、や、〜〜!』
「逃げんな」
『ふ、ッ、んぁああ......!』

 

 

どうにか捻って快感を逃そうとすれば、お仕置のように更に脚が開いて。ずん、と腰が落ちればより一層奥に2本の指が届いてビクビクと震えてしまう。

 

 

『ん、あ、けんとく、らめ、出ちゃ、!』
「いいよ出して、ほら...、俺の名前呼びながらイって」
『、健人、けんと......!っぁ、イ、ッ〜〜〜!』

 

 

ぴゅ、ぴゅ、と液体が床に散る。対して健人くんは服も乱れていないのが、心臓が止まりそうなくらい恥ずかしい。

 


今でも精一杯なのに追い打ちをかけたのは、2人ぼっちだった空間に響いた声。

 

 

" 中島ァ、忘れもんしたから入るけど "

 

 

うそ、だめ、おねがい、首を横に振れば耐えきれなかった瞳の奥の熱がボロボロと頬を伝って形になる。

 


......分かってる、きっと健人くんは泣いてるわたしの方が興奮する。だからこれは、思う壷なの。

 

 

「泣いてる○○ちゃんってほんと欲情するね」
『ッ、健人くん、お願い......、』

 

 

ちゅ、とこの雰囲気に似つかわしくないリップ音が鳴る。流し目でこちらを見る健人くんに頭の中枢がクラクラと麻痺を起こして。

 

 

「あー、いいよー」
『、入っちゃだ、...んぁあ、?!あ、や、なん、で、ッ』

 

 

ゆっくり回るドアノブに気を取られていた瞬間、突然圧迫感に襲われる。

 


吃驚して視線を落とせば、下着を指に引っ掛けてズラしたままぬぷぬぷと健人くんのモノが出入りして。所謂対面座位で、最初から激しい律動に頭も心も着いて行かない。

 

 

『あ、あ、......!ふ、あ、ン、っ、〜!』
〈.........○○ちゃんじゃん〉
「は、分かってて声掛けた癖に」
〈いや中島だけに独り占めさせる訳なくね?〉

 

 

ヒルな笑みを浮かべた彼は何処か寂しげだけど、どうしてだろう、まるで獲物を狙う狼のように瞳が揺れているのは。

 

 

『、風磨、みな、いで、......ッ、ひああ、!』
「俺の挿れて他の男の名前呼ぶとかお前なにしてんの?」
『う、...っあ、ごめ、なさ、健人、く...!』
〈あーあ、こんな泣かされちゃって〉

 

 

グリグリと子宮口を尖端で虐められ中からトロリと蜜が溢れる。するり、と頬を一撫でした風磨が後ろから蕾をクルクルと擦って。

 

 

〈2人に虐められて気持ちーなァ?〉
『あ、らめ、や、おかしく、んぅ、な、......ッ』
「、く、キッツ.........」
『んンん、っ、も、イっちゃ、〜〜〜!』
「は、ぁ、...ん、ッ......!」

 

 

さっきよりサラリとした液がまた床に飛ぶ。ふわふわとした感覚に包まれる中で、太腿への熱と、ぐらりと揺れた身体を後ろから受け止めてくれる腕を感じて。

 


チラリ、と横目で伺った彼の表情は獣のそれ。
.........ああ、まだ、終わらないんだ。

 

 

〈ん、いい子だから俺のことも気持ちよくできるよな?〉

 

 

YESもNOも言わなければ、ひょい、と抱き上げられる。健人くんとのエッチでドロドロに濡れたままのソコに、立ったまま後ろから挿入される。

 

 

〈ほら、もっと突き出さないと○○ちゃんの好きなとこトントンできないんだけど〉
『、きゃ、っ、んう、あ、あ、〜〜ッ』

 

 

ぐい、と腰を取られれば上体が健人くんの方に倒れ込む。受け止めてくれたその顔が近くて思わずキュンと締め付けてしまえば、風磨に揶揄われ、健人くんにはクスクスと笑われて。

 


それにまただらし無く興奮してしまうわたしの貞操観念はきっと2人のせいでボロボロだ。

 

 

「○○ちゃん、べーして」
『らめ、声出ちゃ、...』
〈ふっ、今更だから(笑)中島にべーしてごらん?〉
『ん、あっ、べー、......』
「ん、ふ、ちゅ、......っ」

 

 

舌だけが健人くんと絡まり合い、開けた隙間からは風磨に与えられた快感が零れ出る。

 

 

〈きもちい時はなんて言うんだっけ?〉
『ひ、あ、きもち、奥、きもちいの......!』
〈いい子じゃん、じゃあご褒美ね〉
『、んああ、ッ、〜〜〜!』
〈あれ?もしかしてもうイった?(笑)〉
「...今の○○ちゃんのイキ顔可愛すぎてまた勃っちゃった、ね、舐めて」
〈中島元気すぎ〉
「いや今のマジで可愛かったから、反則」

 

 

前後で言葉を交わし合う2人を無視して健人くんのモノをぱくりと口に含むわたしは、もう麻痺してるんだろう。

 

 

「ん、あ、それいい...」
『、ふ、ほお?』
「ッ、やべ、」

 

 

切なそうに眉を歪めた健人くんが汗で湿った髪を撫でる。唇を窄めてジュルジュル音を立てて吸えば、くしゃりとされて。

 

 

『ひゃア、ッ、ふま、ふま、ーーー!』
「俺の離したくないってキュンキュン締め付けてんの分かる?ほら、」
『んんっ、あ、あ、らめ、抜いちゃ、や...』

 

 

風磨は蜜を散らしながらイイところばかりをぐりぐりと攻めるから、もう限界。

 

 

『、ひ、ぁ、〜〜〜っ、?!!』

 

 

腟内が収縮したと同時にお腹の中があったかくなって。同時に健人くんの欲が口腔内に吐き出された。

 

 

「は......、んー、ごっくんして?」
『!ン、う、......!っはあ、』

 

 

どろりとした独特の味が喉を伝って。あんまり得意じゃないけど健人くんなら、なんてこの気持ちは何なんだろう。

 

 

「口の中みせて」
『うん、......んあ、っぁ、も、ふま、』
〈掻き出してるだけだから〉
『ン...、絶対わざと、...っやぁ、!』
〈......あ、それとも俺の子孕んじゃおっか〉

 

 

風磨との未来ってどんなのだろう、そう考えてしまうのはなぜなのか。

 

 

身体の火照りはまだ冷めることのないまま、ゆらゆらとシーソーが揺れる。

 

 

対象的なふたりの狭間で。

 

 

 

 

 

 

end ❤︎

 

スニーカーとバニラ

 

 

風磨くんと片想い。短編。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


好きな人のためにするオシャレはたのしい。

 


そう言った人はきっと幸せな恋愛をしてる側の人だ。

 


生憎わたしは、そうじゃない。

 

 

 

 

 

 

 


「ひとくちもーらい」
『!ちょ、っねえ最低なんだけど!』
「はあ?大学生がなに唐揚げ1個でマジになってんの?(笑)」
『その唐揚げ1個を最後まで楽しみに楽しみに残しておいたの!風磨のバカ!』
「俺は○○チャンが太んないために食べてあげた訳だから寧ろ感謝して欲しいね」
『.........風磨なんかもう知らなーい』

 

 

どうせ周りの女の子達みたいに細くないですよ。っていうかみんなが痩せすぎなだけだし。

 


冗談だって、ノリだって分かってるけどいちいち気にしてしまうのは風磨のことがずっとずっと好きだから。

 


それなのにムキになって、可愛い返し1つさえもできないからわたしはいつまで経ってもだめなんだろう。

 

 

「もーごめんって、代わりに売店でアイス買ってあげるから機嫌直して?」
『え、ダッツ?』
「は?!お前いま俺が金欠なの知ってるよな?」
『あーあ、唐揚げ食べたかったな、、はあ、』
「......特別に許可しましょう」
『やったあ!』

 

 

風磨の気が変わらないうちにいそいそと購買に向かう。キャンパスの中を2人で歩くことなんてよくあるのに、少しの非日常なだけでこんなにもふわふわと高揚してしまう。

 


ふふ、今日新しいスニーカー履いてきて良かったかも。

 

 

「あ、それあそこの新しいやつじゃん?」
『、あ、うん、そうそう』
「○○に似合ってんね、可愛い」
『っ......、ありがと、』

 

 

ああ、また可愛く返せなかった。

 


些細なことに気付いてくれたのがこんなにも嬉しいのに。

 

 

「何味にすんの?」
『うーん、えっとね、......』
「あ、待って待って、当てるから」
『ふふ、当ててみて』
「バニラ」
『即答?』
「ん、バニラっしょ?」
『当たり!なんで分かるの?』

 

 

吃驚して目を丸くすれば得意気に風磨が笑う。その口許に手を当てる仕草、すきなんだよなあ、とアイスを手に取りながら思う。

 

 

「まあ俺くらいになると単純な○○のことなんて何でも分かるからね」
『......なんでも?』
「そう、なんでも(笑)」
『じゃあ、さ、.........、っ、わたしが、』

 

 

"風磨のこと好きって分かってる?"、そういえば君はどんな顔をしたんだろう。

 


金糸雀のような彼女の声に遮られた今となっては、もう分からないけれど。

 

 

〈風磨くん!金曜日に会うの偶然だね〜、アイス買ってるの?〉
「奢らされてんのこいつに」
〈ええ、どうせ風磨くんがなんかしたんでしょう?(笑)〉

 

 

まるでふたりの世界、わたしの居場所なんてきっとこの世界の何処にもない。

 


だって、風磨の瞳にはあの娘しか映ってないから。

 

 

『わたし用事思い出したから行くね!風磨ごちそうさま!』
「ん、了解、また明日な」
『うん、また明日ね』

 

 

くるりと振り返る前、どう見たって勝てっこないくらい可愛い彼女がぺこりとお辞儀をしてくれる。

 


......あの子だったらさっきなんて返したかな。

 

 

「...そのニットワンピース、マジで可愛い、俺めっちゃタイプだわ」
〈、!えっ、ほんと.....?〉

 

 

さっきより早く歩を進める。
風が言葉を吹き消してくれるように。

 


スプーンで掬ったバニラは唇に触れる前にぼたり、とスニーカーの先に落っこちた。

 

 

 

 

 

 

はつこいシャボン

 

 

幼馴染健人くんと両片思い。微裏表現あり。

recoさん(@szreco)の企画に参加させていただきました✧̣̥̇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、それとって」
『ふぁい、』
「お前口に詰め込みすぎ(笑)」

 

 

そういう自分だってほっぺたは丸く膨らんでいて。モグモグする姿はまるでリスみたい。

 

ごまだれとポン酢。迷いなく渡したのはごまだれで、もちろんそれは正解だった。この男がしゃぶしゃぶでは圧倒的にごまだれが好きなことも、豚肉より牛肉派なことも飽きるほど知っているんだから、まあ外れる筈が無いんだけど。

 

 

『このお肉ほんと美味しいね』
「それ!めっちゃ美味い!俺さっきから箸止まんないもん」
『やめてよ、わたしの分なくなっちゃう!』
「......○○、しゃぶしゃぶは戦争だよ?」

 

 

巫山戯た時の、少し眉を上げながら悪戯っぽく笑うこの表情がずっと好き。
ずっとって言うのは、そうだな、かれこれもう15年くらい。

 

......いざ数字にしたら長すぎてちょっと自分でも吃驚する。

 

幼馴染の健人は、気付けばいつも隣に居た。

 

 

 

 

 


小学4年生の時にマンションのお隣さんに健人が引っ越してきて。少しだけ引っ込み思案だったのに、やけにわたしに懐いてくれてたっけ。

 

「ねえねえ○○」
『なにー?』
「俺のかのじょになる?」
『?ならないよー、小学生だもん』
「えー!じゃあおよめさん!」
『そんなのもっとむりだよ』
「じゃあじゃあ将来なってくれる?」

 

あの時なんて答えたんだっけ。でも結局なんだかんだ言いくるめられて、シロツメクサで作った指輪を薬指に嵌められたのは覚えてる。

 

枯れちゃった時は本当に悲しくて。あんなに泣いたのはあの時が初めてかもしれない。

 

 

 

 

中学生の時は少し微妙な距離ができたんだよね。クラスの女の子に冷やかされるのも、幼い嫉妬による陰口を言われるのも、何だか全部いやで仕方無くて。

 

いつものように健人を避けてた帰り道、夕陽の光が川の水面で跳ね返って、ガタンゴトンと音を奏でる電車にぶつかるあの河原。

 

「、○○、待って!」
『もう、話しかけないでってば...!』
「俺なんかした?もししたなら謝るから」
『......健人は何も悪くないよ、』
「じゃあなんで避けんの?」
『っ、別にわたしじゃなくてもいいじゃん!健人の周りなんて女の子いっぱいいるんだから!』

 

あの時の健人の、傷付いた瞳の色は今も色褪せない。1度視線を地面に落としたあと、真っ直ぐに見詰められて。

 

「でも○○じゃないから、......よく分かんないけど○○じゃないと嫌だ」
『............うん、』
「よし、じゃああそこでアイス買って帰ろ!特別に○○の好きなバニラ買ってあげる!」

 

いつものようにチョコのアイスを食べる横顔はやけにキラキラしてて。"一口いる?"、そう差し出されたアイスは食べれなかった。

 

 

 

 

高校の頃は、既にアイドルへの道を歩み始めていた健人は有名人で。こっそり健人の部屋で会う時間が1番の楽しみだった。

 

「ちょ、お前ベッド上がんなって!」
『えー、健人潔癖症じゃないんだからいいじゃん』
「......そういう問題じゃない」
『意味わかんない』
「...もう、いいから降りて!」
『やーだー!』

 

俯せになって枕に顔を沈めればふわり、と健人の匂いに包まれる。嗅ぎ慣れた柔軟剤の中に、最近つけ始めた香水の匂いを見つけて。

 

まるでそれはわたしの知らない健人みたいで、一気に寂しさと虚無感がわたしを襲った。

 

「はあ...、○○さあ、誰の前でもそんな無防備なの?女の子なんだからもっと気を付けなきゃだめじゃん」
『健人の前だけだもん』
「........、なに、俺だから安心ってこと?」
『え、っと、うん、、だめ、?』

 

ちらり、と寄せられた瞳は今まで見たことがない、男のそれだった。ぐい、と身体を反転させられれば天井を背景に健人の顔が近付く。

 

吐息が、右耳に触れて擽ったい。......どうしよう、心臓が痛くて痛くてはち切れそうだ。

 

『ちょ、っと、健人!』
「俺だって男だよ?」
『わかって、』
「分かってない」

 

どうして君は、そんなに苦しそうな顔をしているんだろう。切なさを絞り出すような声が鼓膜にぽつり、と響く。

 

「...お願いだから、他の男の前でそんな顔しないで」
『けん、...ん、.........!』

 

名前は呼べなかった。唇が触れたから。
想像よりもずっと柔らかかったそれがゆっくりと重なった刹那、ぱちん、と封印していた想いが弾けて飛んでった。

 

もう誤魔化せない、抑えれない、

 

......どうしよう、健人がすき。

 

 

 

 


キスはあの日の一度っきりで。健人はごめんを言わない代わりに付き合おう、だとかも言わなかった。曖昧な月日が終わったのは大学生の頃。

 

『ん〜〜、けんとお、ごめん、ごめんねえ』
「お前何杯呑んだらそんな酔うわけ?」
『おこってる?』
「怒ってる」
『おむかえたのんだから?』
「それは別にいいし、寧ろ頼まなきゃもっと怒ってるから」

 

運転する健人の横顔、かっこいいなー......、世界一綺麗な横顔かも。あ、でも今は怒ってるからちょっと眉が歪んでる。

 

「なんで怒ってるか分かったの?」
『けんとって怒ったらさあ、すぐなんでだと思う?って聞くよね』
「.........○○」

 

ピシャリとした言い方に低い声。思わず肩を竦めれば車が路肩に停止した。

 

「マジで心配させないで」
『......ん、ごめんなさい』
「もう飲み過ぎ禁止、外では2杯まで」
『えっ、2杯?』
「2杯」
『はあい、、』
「えらいね、いい子」

 

大きな手が最近染めたばかりの髪を撫でる。ふわっと向けられた笑顔がそれはそれは甘くて。
やっぱりすきだなあ、って思ったの。

 

『.........すき、健人』

 

助手席から身を乗り出してぶつけるように唇を重ねたのは衝動的。まんまるに開いた健人の瞳をじっと見詰め返せば、振り切るようにその瞳が瞼を下ろして。

 

「酔った勢いとか許さないから」
『んん、...!ふ、ン.........、っ』

 

高校生の頃にしたようなキスじゃない、もっと大人な口付け。滑り込んだ舌はわたしの全部を知り尽くすように動く。

 

そのまま健人のマンションへ連れて帰られれば無言でベッドに押し倒されて。堰を切ったように何度も唇が触れる。

 

「○○、きもちい?」

「......そんなかわいい声出すんだ」

「だめ、逃げんな」

 

耳奥に囁かれるたび、男らしい手が誰にも触れられたことのない部分にふれるたび、キリリとした痛みが快感に変わるたび、愛おしいというような瞳で見詰められるたび、わたしは泣きそうだった。

 

嗚呼、なんて幸せなんだろう、このまま溶けて1つになってしまいたい、すき、健人、だいすき、この震える心臓をあげてもいいくらいに。

 

『けんと、......っ...、あ、健人、〜〜〜!』
「っ、ぁ、...く、.........、!」

 

初めての快感のせいか、はたまたアルコールのせいか。一気に意識がふわふわに包まれて。

 

「多分俺の方がずっと好きだよ」

 

薄れゆく視界の中で、君がそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

こんな風にわたしたちの今までを振り返ってしまうのは、今日でこんな日々も終わりだから。

 

あれ以来お互い一度も好きと言わずに、歳と唇と身体だけ重ねてきた。この関係は言わば、幼馴染であり良き友人でありセフレというなんともヘンテコな関係だろう。

 

ずっと何も言わない健人に甘えてきたけど、ちゃんと分かってる。わたしたちの未来なんて、この広い世界の片隅にさえもないことくらい。

 

だからね健人、

 

 

『幼馴染に戻るか、もう二度と会わないか、どっちがいい?』
「ん?あ、もしもみたいな話?(笑)」
『わたしはね、もう二度と会わない方がいいと思う、健人は?』
「は、ちょ、まって、なんで...」

 

『わたし結婚しようと思うの』

 

 

健人の箸がからん、と音を立てる。すり抜けたお肉がぷかぷかと浮いて。

 


勿体ないからさっとそれを掬って口の中に放り込んだ。

 

 

「誰と、?え、もう相手がいんの?」
『相手いないと結婚するなんて言わないよ』
「ッ、だから誰と!」

 

 

初めて聞いた大きな声にびくり、と肩を揺らせばハッとした顔をして。"...ごめん"、気まずそうに俯けばグツグツと沸騰する音が静寂に響いた。

 

 

『会社の人、告白されたの、結婚を前提に付き合ってくださいって』
「......○○はその人のことが、...好きなんだよね?」
『.........それは、』

 

 

もちろん好きだよ、たった8文字が喉につっかえて言葉にならなくて。全身が拒否するの。健人以外を好きだと言うことを。

 


ぽたり、と涙がテーブルにあたって弾けたその時。まるで壊れ物に触れるかのように優しく健人に抱き締められた。

 

 

「○○は俺のこと好きなんじゃないの」
『っ...、なにそれ、自信満々、むかつく、』
「俺の方がむかついてる、長年の想いどうしてくれんの?こっちはもう15年好きなんですけど」
『、え、......』
「大体約束したじゃん小4の時、俺のお嫁さんになるって」

 

 

え?あれわたし結局なるって言ったんだっけ?っていうかそんな小さい頃の約束って有効なものなの?

 

 

「彼氏、将来的には旦那さん」
『え?なに......、』
「さっきの答え」

 

 

唇を掠め奪った健人がまた悪戯っぽく笑う。

 

ずっと聞いてみたいことがあったんだ。

 

何度も聞こうとしてやめた、ありきたりでちょっと恥ずかしくなるようなそんな質問。

 

 

『ねえ、健人』
「ん?」
『...わ、わたしのこと好き?』
「えっ○○ってそういうの聞くんだ、かわいい」
『、〜〜!も、答えて!』
「すきだよ、好きじゃ足りないくらい」

 

 

ぎゅう、と腕の中に閉じ込められる。横目でしゅわしゅわと弾けるビールの甘くて苦い泡を見ながら思ったの。

 

きっとわたしは今日を一生忘れない、って。

 

 

 

 

 


end

 

被虐的なプロローグ

 

 

地味な健人くんと図書室で。激裏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしは可愛い、らしい。

 


くっきりとした二重、透き通るような白い肌、ぷっくりとした唇。自分が可愛いに分類される人間だと認識したのはいつだったっけ。同性からの羨望と妬みの眼差し、異性から向けられる好意的な態度、街を歩く人々の視線、その全てがわたしに教えてくれた。

 


だからわたしは最大限までそれを利用して、"楽でたのしい"人生を歩むって決めたの。だって勿体ないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 


〈ねえ、次は誰狙ってるの?〉
『もう、そんな言い方やめてよ(笑)』
〈だって○○いいなって言った人すぐ落とすじゃん!それにすぐ別れるしさあ〉
〈そうだよ、なんで別れるの?あ、とりあえず1回試したいだけ的な?〉
『ん〜、ひみつ』

 

 

人差し指を唇に充てればキャーキャーと盛り上がるのはそういうお年頃だから。だから言えない、本当は未経験だなんて。別れるのはキスより先に進むのが怖いから、だなんて。

 


彼女たちの中ではわたしは恋愛経験豊富な女の子。きっとクラスやこの学校の人たちだってそう思ってる。与えられたキャラを演じなければいけないのは、女の子特有で暗黙のルールでしょ?

 

 

『でも最近は中島くんいいなあって思ってるんだ』
〈えっ中島?!めちゃくちゃ陰キャじゃん!〉
〈それな、○○なら秒で落とせる(笑)〉

 

 

ああ、彼女たちは何も分かってない。表面上の雰囲気に騙されてるだけ。確かに中島くんはいつも無口で本を読んでて、一言で言ってしまえばもさい。だけどわたしは知ってるの、その眼鏡と長い前髪で隠れた顔は美しく端正で、かなりかっこいいってことを。

 


まさに磨けば光るタイプ。わたしと付き合い始めてかっこよくなる、なんて最高のシナリオだ。

 

 

『ごめんね、いきなり呼び出したりしちゃって』
「いや、大丈夫、それより話ってなに?」

 

 

誰もいない図書室に呼び出した中島くんはいつも通り片手に本を持っていて。窓から緩やかに差し込む夕日が空間に舞う埃をキラキラと照らす。

 

 

『えっと、あのね、......健人くんって彼女とか、いる?』

 

 

いきなりの名前呼びにもぴくりとも反応せず、その表情は淡々としていて。いないけど、と小さく呟くのに僅かな苛立ちを感じる。もっとわたしでペースを乱してみせてよ。

 

 

『よかったあ、、あっ、その、...実はずっと健人くんのこといいなって思ってて』

 

 

ぎゅ、と手を握り上目遣いで見詰める。初めて触れた手は男の子なのにすべすべで、わたしと同じくらい白い。ほら、大体みんなここで"俺も実は○○ちゃんのこと、"って言うよ?

 

 

「俺は君のこと、」

 

 

うんうん、わたしのこと?

 

 

「正直嫌いなタイプかな」

 

 

.........は?大きく目を見開いたわたしとは対照的に、ニヒルな唇が吊りあがった。握った手がわなわなと怒りで震える。

 

 

「こうやって媚びたら男が誰でも靡くと思ってるところとか特にね、あ、でも一周まわって可愛いかも、単純で」
『なにいって、』
「何ってそのままの意味だけど?」
『ッ、〜〜!中島くんってキスはおろか恋愛もしたことないでしょ?なのに上から語っちゃって馬鹿みたい』
「......じゃあ試してみる?本当にキスしたことないか、」

 

 

売り言葉に買い言葉。オレンジの光で色を変えたワイシャツの襟を掴みぐ、と引き寄せる。

 

 

『やれるならやってみせてよ』
「......あ、そ、○○が言ったんだからね」
『!なに勝手に呼び捨て、...んん、!』

 

 

開いた口ににゅるりと舌が差し込まれる。口腔内を把握するように動くそれが、上顎、歯の裏、舌のザラザラした部分をなぞって。思わず身を捩れば後頭部をがっちりホールドされる。......まるで、脳内をぐちゃぐちゃに掻き乱すようなキス。

 

 

『っふ、あ、......っ、...んン、』
「は、清楚な見た目してキスだけでそんな声出すんだ?○○の方が慣れてなかったりして」
『そんなわけ、んう、ッ......!』

 

 

反論は許さないというように唇が覆われ、隙間がなくなる。貪るように下唇をちゅう、と吸われれば身体の力が抜けてしまって。ガタン、と大袈裟な音を立てながら長机に押し倒される。

 

 

『や、ら、』
「だから○○が言ったんじゃん、.........ほら舌出して」
『!?や、むり......!』
「出さないなら指突っ込むけど」
『ッ、.........べ、...ぁ、ふ、......っ』

 

 

人差し指が唇の隙間に触れ、その鋭い瞳に本気だと分かって。いやいや舌先をちろっと出せばあの柔らかい舌で引き摺りだされ、舌だけが絡まり合うなんとも淫靡なキス。

 


もう十分わかった、キスしたことない訳ない。寧ろ今までしたどんなキスよりも思考を奪い蕩けさせるようなキス。何も分かってないのは、わたしも同じだったんだ。

 

 

『も、わかったら、馬鹿にしてごめん、』
「いいの?ここでやめて、物欲しそうな顔してるけど」
『ッ、してない!』
「じゃあ確認してもいいよね?もし濡れてなかったらもう触らないから」
『〜〜!や、だめ、やだやだ、!』

 

 

じたばたと暴れても男の子の力に適うはずなく。折り曲げて短くしたスカートがぴらんと捲られる。露わになった白のショーツのレース部分を、いつも本をめくっている指先がヒラヒラと弄んで。

 


クロッチ横から忍び込んだ指先がくちゅ、と音を奏でた。

 

 

「あーあ、なにこの音」
『んンん、......っ...!あ、やあ、!』
「......濡れちゃってるね?」
『ひ、あ、っほんと、だめ、なかじまく、...』
「嫌がってる割にここどんどん溢れてくるけど、なんでだろーね」

 

 

何で、なんてわたしが聞きたい。だって初めて男の子に触れられた時痛くて仕方無かったのに。こんなに気持ち良くなんて無かったから今まで怖かったのに。

 


分かってる癖に態々聞いてくる彼は楽しそうにくすくすと笑う。音を嫌がって瞳に涙を溜めるわたしを見ると、それはもう可笑しそうで。中島くんは間違いなくサディストと呼ばれる人間だ。

 

 

「○○のエッチな液で汚れるから脱ごうね」
『、あっ、......!〜〜〜っ、みない、で、』
「だめ、起きて脚開いて」
『!?そんなの、む、.........、』

 

 

無理、そう言いたかったのに言えないのはわたしより上の視線にいる中島くんがすっと目を細めたからで。それだけで頭の中枢が痺れたように麻痺し、被虐的な気分になるわたしは、マゾヒストと呼ばれる側の人間だったのか。

 


長机に腰掛け、下着もつけずはしたなく脚を開いてるなんて、誰が数十分前に想像しただろう。

 

 

「ふふ、泣きそうなの?」
『ッ、ふ、......!も、おねがい、』
「やめるのをお願い?それとも、触って欲しいっていうお願い?」
『!んン、...っ、あああ、ッ、〜〜〜!』
「○○が本当に嫌ならやめてあげる、無理強いはしない主義だから」

 

 

剥き出しになった蕾をくるくると擦られ、誘うようにその尖端に蜜を塗りたくられる。ぴくぴくと震える腰もだらしなく開いた隙間から零れ落ちる嬌声も、素直で。

 


ふう、と息を吹きかけられればポタッと蜜が一雫机に模様を描く。

 

 

『......もっと、さわっ、て?』
「何処をかちゃんと言わないと分かんない」
『、やだやだ、言えない、!』
「じゃあ終わろっか」
『っ、待って』

 

 

去ろうとするシャツの裾を慌てて掴む。ほら言って、と優しく頬を撫でられれば羞恥で涙がポロポロとその手を伝って。

 

 

『.........、クリ、触って、くださ、』
『なかじまくん、お願い、......ッ、...ひう、!』

 

 

堪らないというように中島くんの唇が勢い良く触れる。また押し倒されれば陰核をぐちゃぐちゃと、だけど的確に感じるポイントを虐められて。上も下もドロドロに溶かされる。

 


ずっと腰の跳ねが止まらなくて、ゾクゾクと身体の底から何かが沸き立つ。こわい、いやだ、こわい、でもきもちい。舌をぢゅっと吸われた刹那、びくびく、!と身体が震えて脳裏が真っ白に染まる。.........これが、イくって感覚?

 

 

「○○ってシたことないでしょ」
『、ん、...』
「処女でこれかあ、.........いいね、かわいい」
『えっ、かわいいって、』
「なに?」
『いや、中島くんって可愛いとか言うんだって思って...』
「そりゃ男ですから、○○の泣き顔も喘ぎ声も可愛いよ?」
『〜〜!あっそ、』
「......やっぱり喋ってるより喘いでる方が可愛いから、大人しく鳴いてて」

 

 

ぐちゅ、と蜜口に差し込まれた指が狭い中をゆっくり動く。グチグチと音を鳴らしながらお腹の裏の方を擦られれば、さっきとは違う感覚。ムズムズするようなそれは絶頂には程遠くて。

 

 

「開発しがいがあるなあ、」
『ん、ぁ、......っ...、なんのこと、』
「これじゃイけないだろうから、こっちも舐めてあげるね」
『〜〜〜、?!!ひあ、んンん、ッ、あ、あ、......っ』

 

 

指の動きはそのままに舌が全体を舐め上げる。初めての行為に暴れようとしても、完全に力は抜け切っていて。せめてもの抵抗で頭を押す手はふるふると快感が震える。

 

 

『んん、あ、あ、や、またきちゃ、』
「ん、ちゅ、......いっていーよ?」
『...ひう、ッ、あああ、ーーーー!』

 

 

舌足らずな声が聞こえた瞬間、ぢゅうと蕾を吸われまた呆気なく果ててしまう。

 


余韻に浸るわたしを現実に引き戻したのはカチャカチャと鳴る金属音。指定のベルトを緩め、露わになった下着は張り詰めていて。むり、そんなの絶対痛いもん、入らない......!ごくん、と生唾を飲みながら後ろへ逃げる。

 

 

『や、おねがい、やだ無理入んない、』
「さっきから嫌がっても結局気持ち良くなっちゃうんだから、もう嫌がるフリやめたらいいのに」
『フリじゃない、!』
「じゃあまたあの子たちに処女じゃないって嘘つく?」
『そ、れは......』

 

 

ぐらり、と傾いたのは足首を握って引き戻されたから。ぐらり、と揺れたのはずっと中島くんはあの子達の中心で嘘をつくわたしを黙って笑って見てたんだって分かったから。

 


そんな彼に処女を奪われるんだ、そう思うだけでどろりとまた机を汚してしまうわたしはきっともうおかしい。奪うのか、捧げるのか、どちらが適切かは分からないけれど。

 

 

「俺のも気持ち良くして」
『ん、ぁ、〜〜〜!っ......い、あ、...』
「痛い?」
『いた、い、』
「......はあ、かわいい、今日は優しくしてあげるから」
『っあ、なかじまく、』

 

 

かわいい、なんてとっくに言われ慣れた。それに彼の言うかわいいは性的に興奮する、という意味合いで。それなのに嬉しくなってぎゅっと背中のシャツを掻き集めてしまう。

 

 

「っく、締まりやば、」
『ん、ん、、、ぁ......』
「悦くなってきたね、?」

 

 

愛液を潤滑液にして、浅い部分や奥の方を健人くんが行き来する。

 

 

『ッあ、そこ、なんか、やだ、...!』
「ん、ココ?」
『、ひ、〜〜!そこ、っ、』
「ここが好きなんだ?じゃあいっぱい虐めてあげるね」
『ふあ、あ、ちが、ーーー!』
「優しくシてあげるって言ったじゃん、!」

 

 

これが優しいなら今後どうなっちゃうんだろう。ん?今後って......、いやもう中島くんとシたい訳ないじゃん、こんなサディストお断り、な筈なのに身体の反応は止まらない。

 


心だけ置いてけぼりなのが怖くてまた泣いてしまえば、結局中島くんの思う壷。

 

 

「っは、○○、...あ、名前呼んだらナカぎゅうぎゅう締め付けてきた、○○、」
『あ、やら、.........っ...』
「あんま泣かないで、興奮しちゃうから」
『、ッへんたい、...んンん、〜〜!』
「変態に犯されて善がってんのはだれなの、?」

 

 

がっ、と大きく脚を開かされより奥に入り込む。ガタガタと揺れる机も、廊下の笑い声も、グラウンドで鳴り響く笛の音も全てが遮断されてゆく。

 

 

『あ、あ、またきちゃ、〜〜〜!』
「ッ、あ、イく、......」

 

 

中島くんが財布に常備していたらしい膜がわたしたちを隔てる。

 


......この人は一体、どんな人なんだろう。もっと知りたい、この感情は彼にとって迷惑なんだろうか。

 

 

『中島くん、』
「なに?もし好きになったとかならやめてね」
『自惚れすぎ、こっちの台詞よ』
「......クラスで見る○○とマジで全然違うんですけど」
『どっちが好き?』
「...こっちかな」
『わたしも、今の中島くんの方が好き』

 

 

気だるそうな瞳がちらり、と此方を向く。片手にはまた本。

 

 

『ねえ、それなんて本?』
「......興味あるの?」
『中島くんのこともっと知りたくなったの』
「○○って変わってるね」

 

 

彼の白い歯が見え、くしゃりと丸っこい瞳が垂れる。

 


わたしは初めて、彼の笑顔を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

雪色のプリマヴェーラ chapter4

 

 

お隣さん健人くんと急接近

 

第4話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

透けてないか不安になる半透明の扉がコンコン、と控えめに叩かれる。シャワーに掻き消されないよう返事をすれば、平静を装ったはずの声は思いっきり裏返って。
......意識してるのバレバレ、恥ずかしすぎる。

 

 

「○○ちゃん、着替え置いとくね」
『ありがとうございます!』
「あと化粧水とか好きに使って大丈夫だから、俺ので申し訳ないんだけど」
『何から何まですみません、、』
「いえいえ、ごゆっくり」

 

 

ちょっとだけ整理をしよう。わたしは今晩、健人くんと、...デートに行って。いざ帰ろうとしたら鍵が無くて。わたしが良ければ、と泊まることを勧めてくれた健人くんに全力で断ったらまるで寂しがる子犬みたいな瞳をされて、お言葉に甘えることになって、そして今は化粧水たたき込んでる.........って、何チャンのドラマ?

 


普段使えないようなハイブランドの化粧水を遠慮気味に拝借する。置かれていた着替えはまさかのバスローブ。そういえば健人くんもお風呂上がりにバスローブ着てたっけ。初めて身を包んだそれはわたしには少し大きくてふわふわで、健人くんと同じ香りがした。

 

 

『色々お借りしました......』
「ん、おかえり」
『ただいま、です、』
「ふふ、○○ちゃんのすっぴん見れちゃった」
『!み、見ちゃダメです!』
「こら、この手だめ」

 

 

思わず顔を覆った手は緩く捉えられて。明るくなった視界には、思ったよりも近い距離の健人くん。......キメ細やかな白い肌、女の子顔負けに長い睫毛、どうしよう、ドキドキする。

 

 

「.........ほら、かわいい」
『...っ、〜〜〜!』
「あー、...っと、ちょっと待ってて」

 

 

心臓、止まるかと思った......。何故か頬を少し赤らめればくるりと向こうへ行く背中を見詰めて。絶対健人くんにかわいいって言われる度に少しづつ溶けてる気がする。

 

 

「どうぞ、お姫様」
『わ、いい匂い......!それに美味しい、、』

 

 

ことり、と目の前に置かれたカップからはハーブティーの芳醇な香り。一口飲めば火照った身体に冷たさが心地好くて。スッキリした後味に舌鼓を打つ。

 


気分が落ち着けば、さっきまで見ていなかったインテリアに目がいって。クリムトの接吻のレプリカや、色んな本、健人くんが表紙にいるDVD、......あのミラーボールは一旦触れないでおこう。

 

 

クリムト本当にお好きなんですね』
「うん、今は前よりもっと好きかな」
『どうしてですか?』
「だって○○ちゃんとこうして居られるのもクリムトがきっかけだから」

 

 

いつも甘い彼だけど、一段と今日は砂糖菓子みたいにふわふわとあまくて。アイドルとただの美大生、あまりに違う身分なだけにもしかして、なんてそんな夢物語は描かないつもりだけど。

 

 

「髪乾かしてあげる、おいで」

「○○ちゃんの髪すっごいサラサラだね?触りたくなっちゃう」

「ふふ、ねえ、一緒の匂いするの照れるんだけど俺だけ?(笑)」

 

 

こんな風に言われたら、考えてしまう。もし、健人くんがわたしを好きでいてくれたら、もしわたしも健人くんが好きだったら、どんな日々を過ごしたんだろう。真っ直ぐな愛を一心に受けるって、どんな感覚?

 


慧さんのそばにいる限り、それは一生味わえないのなんてもう嫌になるくらい分かってる。

 

 

「また泣きそうな顔してる」

 

 

どうして人は自覚した瞬間に弱くなる生き物なんだろう。じわり、と滲みかける視界で健人くんの残像がぼやけた、刹那。

 

 

「........."慧さん"?」
『、......ッ』
「俺ならそんな顔させないけど、」

 

 

高めの体温、濃くなった同じシャンプーの香り、首元にかかる吐息。抱き締められ密着した身体に互いの鼓動が伝わって。
トクトク、と早いこの鼓動がわたしのか健人くんのか考えられない。

 

 

『あの、健人くん.........』
「俺のこと好きになって?」
『それ、って、』
「好きだよ、○○ちゃんのことがすき」

 

 

間髪入れずに伝えられた言葉、心を射抜いてしまうような真っ直ぐな視線。でもにわかには信じ難くて。だってそんな夢物語、

 

 

『うそ......、』
「グラッドアイの意味、まだ教えてなかったよね、.........君にときめいて、だよ」

 

 

これでもまだ信じられない?、そうゆっくりと頬に手が添えられる。何も答えられなくなってしまったわたしに、伏せられた瞼がゆっくりゆっくり近付いて。

 


短く吐かれた吐息が触れたその時、健人くんの胸にぐ、と力を込めた。

 

 

『、ごめんなさい、わたし健人くんに好きなんて言ってもらえる資格なんてないんです、』
「○○ちゃん、どういう意味......?」

 

 

狼狽えるように健人くんの黒い瞳がユラユラと揺れる。

 

 

『慧さんは彼氏じゃなくて、そんな綺麗な関係じゃなくて、あの部屋だって、......ッ』

 

 

纏った嘘がボロボロと言葉になる。わたしは健人くんが思うような女の子じゃない、そんな綺麗な人間じゃない。もっと狡くて汚くて浅ましい、そんな人間なのに。

 


それなのに、どうしてあなたは変わらない目でわたしを見るの。

 

 

「もういいよ、言わなくて」
『健人く、...んう、っ.........!』

 

 

初めて重なった唇は何処か切ないハーブの味。一度だけ離れたその隙間で、すき、と囁かれる。応えるように背中に腕を回せばバスローブのふわふわを掴んで。

 

 

『ん、......ふ、ッ』
「、っ、......ン、、」

 

 

貪るような口付けに夢中になる。ぶくぶくと海に沈むように、陽の光さえも届かない場所まで健人くんに溺れる。

 


この深海はきっとあたたかくて心地好くて、もう二度と地上には戻りたくないと思ってしまうんだろう。