スニーカーとバニラ
風磨くんと片想い。短編。
好きな人のためにするオシャレはたのしい。
そう言った人はきっと幸せな恋愛をしてる側の人だ。
生憎わたしは、そうじゃない。
「ひとくちもーらい」
『!ちょ、っねえ最低なんだけど!』
「はあ?大学生がなに唐揚げ1個でマジになってんの?(笑)」
『その唐揚げ1個を最後まで楽しみに楽しみに残しておいたの!風磨のバカ!』
「俺は○○チャンが太んないために食べてあげた訳だから寧ろ感謝して欲しいね」
『.........風磨なんかもう知らなーい』
どうせ周りの女の子達みたいに細くないですよ。っていうかみんなが痩せすぎなだけだし。
冗談だって、ノリだって分かってるけどいちいち気にしてしまうのは風磨のことがずっとずっと好きだから。
それなのにムキになって、可愛い返し1つさえもできないからわたしはいつまで経ってもだめなんだろう。
「もーごめんって、代わりに売店でアイス買ってあげるから機嫌直して?」
『え、ダッツ?』
「は?!お前いま俺が金欠なの知ってるよな?」
『あーあ、唐揚げ食べたかったな、、はあ、』
「......特別に許可しましょう」
『やったあ!』
風磨の気が変わらないうちにいそいそと購買に向かう。キャンパスの中を2人で歩くことなんてよくあるのに、少しの非日常なだけでこんなにもふわふわと高揚してしまう。
ふふ、今日新しいスニーカー履いてきて良かったかも。
「あ、それあそこの新しいやつじゃん?」
『、あ、うん、そうそう』
「○○に似合ってんね、可愛い」
『っ......、ありがと、』
ああ、また可愛く返せなかった。
些細なことに気付いてくれたのがこんなにも嬉しいのに。
「何味にすんの?」
『うーん、えっとね、......』
「あ、待って待って、当てるから」
『ふふ、当ててみて』
「バニラ」
『即答?』
「ん、バニラっしょ?」
『当たり!なんで分かるの?』
吃驚して目を丸くすれば得意気に風磨が笑う。その口許に手を当てる仕草、すきなんだよなあ、とアイスを手に取りながら思う。
「まあ俺くらいになると単純な○○のことなんて何でも分かるからね」
『......なんでも?』
「そう、なんでも(笑)」
『じゃあ、さ、.........、っ、わたしが、』
"風磨のこと好きって分かってる?"、そういえば君はどんな顔をしたんだろう。
金糸雀のような彼女の声に遮られた今となっては、もう分からないけれど。
〈風磨くん!金曜日に会うの偶然だね〜、アイス買ってるの?〉
「奢らされてんのこいつに」
〈ええ、どうせ風磨くんがなんかしたんでしょう?(笑)〉
まるでふたりの世界、わたしの居場所なんてきっとこの世界の何処にもない。
だって、風磨の瞳にはあの娘しか映ってないから。
『わたし用事思い出したから行くね!風磨ごちそうさま!』
「ん、了解、また明日な」
『うん、また明日ね』
くるりと振り返る前、どう見たって勝てっこないくらい可愛い彼女がぺこりとお辞儀をしてくれる。
......あの子だったらさっきなんて返したかな。
「...そのニットワンピース、マジで可愛い、俺めっちゃタイプだわ」
〈、!えっ、ほんと.....?〉
さっきより早く歩を進める。
風が言葉を吹き消してくれるように。
スプーンで掬ったバニラは唇に触れる前にぼたり、とスニーカーの先に落っこちた。