ultimatelove_sのブログ

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3分間ロマンチック

 

 

風磨くんとの日常。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おでん食いたくね?」

『......食べたい、かも』

 

 

設定温度24°の暖房がかかった部屋は天国だ。なんてったって外は雪が降るんじゃないかってくらい寒いもん。お気に入りのブランケットに包まりながらなんとなくインスタのストーリーを流し見していたところに、聞こえた風磨の呟き。

 


......ああ、頭の中がおでんでいっぱいになってきた。

 

 

『もう、風磨のせいでおでんのことしか考えられないじゃん!』
「俺のせいにすんのやめれる?(笑)」
『だってそうだもーん』
「いやいや、○○の食い意地が張ってっからだろ」

 

 

一言多い風磨をじろり、と睨めばブランケットを乱雑に床に投げる。どうせ家から3分のコンビニなんだからこのままでいっか。我ながらズボラだけど、部屋着にコートを羽織って前を閉めれば、ほら、問題無い。

 

 

『風磨何がいい?』
「んー、...」

 

 

ちらり、と切れ長の瞳が時計を捉える。時刻はとっくに24時を回ってて。"俺も行くわ"、あっという間に同じくコートを羽織った風磨に少し焦る。

 


わたしたちの関係は言わば秘密の恋、といったところだろうか。秘密という響きは甘美だけれど、その味は時に寂しい。2人でデートは疎か、並んで歩くことだって滅多にないのに。

 

 

『いや、すぐそこだし1人で行ってくるって』
「あっそう、○○ちゃんは俺と行きたくないんだ?ふまくん寂しいよ〜」
『え、こわ(笑)』
「ふは、今の可愛いって言うとこな?」

 

 

可愛くない返事はただの照れ隠し。家から3分のコンビニにおでんを買いに行くだけ、それだけなのに、......なんかデートみたい。なんて、風磨にバレたらまた揶揄われるに違いないから。

 

 

「大丈夫だから、心配すんな」
『...じゃあ風磨の奢りね、』
「はいはい、......あ、○○待って」

 

 

靴を履こうとすれば、目深に帽子を被りマスクをつけた風磨に手を引かれて。ふわり、と首元を暖かくしたのは去年風磨に貰ったマフラー。今年初のそれは柔軟剤の香りをたっぷり纏っていて心地好い。思わず鼻を埋めればくしゃり、と風磨によって柔らかく髪を乱された。

 

 

「さみぃ〜......!」
『12月の始まりってこんな寒かったかなあ、』
「お前毎年同じこと言ってるけど?(笑)」

 

 

何気無い一言にも2人の積み重ねた時間が滲む。肩を震わせて笑う風磨の影が街灯の元で不規則に揺れた。その隣にはもこもこしたシルエットの影がひとつ。
そういえば隣で歩くの、いつぶりだっけ。

 


思った以上にヒヤヒヤしている気持ちとは反対に、軽快な音が鳴る。気が早いクリスマスソングが流れる店内にはおじいさんの店員さん1人だけで。良かった、大丈夫そう。横目で窺った風磨はほらな?言っただろ、とでも言いそうな顔で得意気に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

『んー、、買いすぎた?』
「まあ食えるだろ、ちょうど小腹も空いてきたし」

 

 

ちょうどやっていた80円セールの恩恵に預かって、コンビニの袋には大根、玉子、こんにゃく、はんぺん、ちくわ、すじ肉、それから最後にこっそりカゴに入れたいちご大福。

 

 

『風磨っていつも大福みたいだけど特に冬はここらへんがモチモチになるよね』
「おい、大福言うな(笑)」

 

 

ふにふに、と緩く摘んだほっぺたはやっぱりもち肌で。ほんとスキンケアだってろくにしないくせにずるい。こっちはいくらの化粧水使ってると思ってるの、まったく。

 


なーんて理不尽な怒りをこっそりとぶつけていれば、頬に触れていたはずの手にゆるりと指が絡まる。そのままポケットに突っ込まれれば一気に冷え切った手が温もりをもった。

 

 

『......やっぱりずるい』
「ふは、ね、○○、」

 

 

この雰囲気のなか、名前を呼ばれれば次はなにか、なんて1つでしょ?

 

 

「ん、...!」

 

 

爪先立ちになって肩を引き寄せれば少しだけ不器用に唇がぶつかる。不意打ちにぽかん、と口を開けた風磨の顔がみるみる赤に染まって。
たまにはこういうのも、悪くないんじゃない?

 

 

『ふふ、いちご大福だ』
「っ、おま、......今夜手加減しねえからな」
『おでんが先だもーん』
「○○ちゃんは色気より食い気でちゅね〜(笑)」

 

 

澄み切った夜の空気の中、閑静な小路に笑い声が響く。街灯に照らされた影はいつのまにかくっ付いてひとつになっていて。擽ったくて気恥ずかしくて、しあわせ。

 

 

『もうほんっと、風磨ってうるさいね?』
「でもそんなところも?」
『、、、すき』

 

 

ぽかりと浮かぶ三日月みたいな目がきゅっと垂れる。ぱたん、と音をたてながら閉まった扉が冷たい空気を遮断すれば、もう一度唇が重なり、深く深く溺れてゆく。

 

 

「どっち先にしよっか?」

 

 

答えなんてどうせ分かってるんだから、言ってやんない。代わりに袋をキッチンに置けば、悪戯っぽく風磨が唇を歪め、マフラーもコートも取っ払われる。

 


あ、おでん温め直して貰わなくて良かった。

 


ベッドに沈む寸前、そんなことをぼんやり思ったのは風磨に内緒。

 

 

 

 

 

 


end