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禁忌への扉

 

 

健人くんと彼氏持ち○○ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


〈○○は可愛いんだからもっと遊べばいいのに〜!〉
『え?普通に休日とか遊んでるよ?』
〈もぉ、そうじゃなくてさあ、〉

 

 

飲み会の喧騒のなか、ラメを纏ったピンク色の唇が"男の子と!"、と動く。でもわたし彼氏いるし、と控えめな愛想笑いを浮かべれば彼女の長い睫毛が大袈裟に揺れた。

 

 

〈彼氏って他校でしょ?大丈夫、ちょっとくらいバレないって!大学生なんてみんなそんなもんじゃん?〉
『まあ、確かにね、、』
〈それにさぁ、もう付き合って3年だっけ?正直マンネリだったりしないの?〉

 

 

直球すぎる言葉に痛いところをつかれたな、と思う。正直バイト先で知り合って付き合った勝利とは中々会えない上に最近はどう考えても倦怠期。......最後に電話したのはいつだっけ?最後にシたのは?もうキスすら思い出せないや。

 


顔に思ったことが正直に出てしまう性格のせいか、にんまりと彼女が笑えば耳に唇が寄せられた。

 

 

〈知ってた?同じ学科の男子で○○のこと狙ってた人結構いたんだよ?ぶっちゃけ今もいるし、でも○○全然遊んでる雰囲気もないしガードも固いしでみんな諦めてるんだって〉

 

 

かあ、と頬が熱くなる。恥ずかしいような、でも嬉しいような。人に好意を向けられるのってこんなに嬉しかったっけ。"今日くらいいいんじゃない?"、そう言い残して席を移動した彼女の残り香はほんのり甘くて。

 


周りの女の子の派手なメイクも流行の服も、いい匂いの香水も煌びやかなネイルも、全部わたしにはない。清楚で自然が好きな勝利に合わせた格好には慣れていたはずなのに、自由で気ままな彼女たちと比べると酷くつまらないものに成り下がってしまう気がした。

 

 

「ここ空いてる?」
『あ、うん、空いてるよ』
「マジ?○○ちゃんの隣とかラッキー」

 

 

グラスを持って現れた健人くんは学科の女の子たちが口を揃えて1番かっこいい!とはしゃぐような人で。揺れる銀髪はまるでわたしとは別次元の世界の人みたい。そんな人の隣に座れるわたしの方がラッキーだったりして。

 


ふと、グラスの中でしゅわしゅわと気泡が浮かんでは消えているのに気付いて首を傾げる。
健人くんってお酒飲めたよね?

 

 

『今日飲んでないんだね、体調悪かったりする?大丈夫?』
「ん?ああ、今日車で来たんだよね」
『そうなんだ、うーん、わたしも免許欲しいな』
「......うん、俺もやっぱり欲しいな」

 

 

やっぱり欲しいって健人くん車持ってるんだから免許もあるんじゃ...?そんな疑問は"あ、こっちの話"、と流されて。

 


それよりさ、と頬杖をついて上目遣いで覗き込む健人くんに思わず胸が高鳴る。そんな風に見るなんて、絶対自分の魅力を分かってる。
......みんな、こういう所にも惹かれるのかな。

 

 

「さっき××と話してたよね?2人の組み合わせ珍しいなーと思ってさ、楽しそうだったけど何話してたの?」
『えっ、えーっと、その、...もうちょっと男の子と接したらって言われて、』
「へぇ.........」

 

 

ふと、目線を落とした健人くんになんとなく焦ってしまう。もしかしてこういう話嫌いだった?空回りした心のまま、継ぎ接ぎの言葉を紡ぐ。

 

 

『あ、彼氏と倦怠期って言ったらそうやって勧められてね、!実際もう3年だし他大だしで、キスしたのさえもいつだっけ、なんて、あはは......』

 

 

最悪だ、こんなこと健人くんに話して。わたしの彼氏どころかキスになんて絶対微塵の興味もないのに。わたしの代わりに汗をかいたグラスがぽたり、とスキニーに2つまるを描く。

 


瞬間、健人くんの掌が太股にするりと置かれた。

 

 

『、!』
「じゃあ、俺なんてどう?」
『ぇ、っと...』
「ごめんね、こんなチャンス逃してあげれない」

 

 

動揺に瞳が泳げば、"こっち見て"、甘く低く健人くんが囁く。誘導されるように視線が合わさると、ばくばくとうるさい心臓の音がやけに耳について。...わたしには勝利がいるのに。そう思えば思うほど、背徳感と痺れるような甘さに頭の中が支配される。

 

 


「帰ろっか、送るよ、......さっきの意味は車の中で教えてあげる」

 

 


ううん大丈夫、そう言って引かれる手を振り払うこともできた。でもそうしなかったのは、紛れも無く、自分の意思だ。

 


頭の中で、今日くらいいいんじゃない?、彼女の誘惑がまるでアルコールのようにぐわんぐわんと響く。

 


今日くらい、ちょっとだけ、一緒に帰るだけ、そんな狡い想いは夜の暗闇の中に溶けて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

『あれ、、』
「ん、どうかした?」
『シートベルトが、』

 

 

さっきから鳴り止まない心臓のせいか、じんわりと汗をかいた掌のせいか、シートベルトが上手くいかない。こんなの、思いっきり意識してるのなんてバレバレだ。焦ってカチャカチャと動かしていれば影に覆われて。

 


ぐ、と身を乗り出した健人くんが窓に手を着く。ち、かすぎるよ......

 

 

「ふふ、顔真っ赤」
『っ、〜!』
「シートベルト締めてあげようと思っただけなんだけどな、」

 


「そんな可愛い反応、誘ってるようにしか見えないよ?」

 

 

いつもはしゃいでいる時とは違う、低く囁く声が耳元に触れる。健人くんの長い睫毛が伏せられればみるみると距離を縮め、あっという間に唇が重なった。

 


最初は軽く触れ合い、次は啄むように。何度も落とされる口付けに酸素を求め開いた隙間から、にゅるりと薄い舌が侵入する。柔らかな感覚と歯列をなぞるそれに、ふわふわとした心地になって。久々だから?それとも、健人くんだから?キスってこんなに気持ち良かったっけ。

 

 

『ん、ぁ、、』
「○○ちゃん、かわいい...、もっと口開けて?」
『っ、ン、...!』

 

 

従順に開けばさらに絡まり合う舌がくちゅくちゅ、と音をたてて。溢れた唾液が顎を伝えば、酷く淫らな気持ちになってしまう。

 


2人の唇を紡ぐ糸がぷつん、と途切れる。シルバーの隙間から覗く健人くんの扇情的な瞳を、パーキングの灯りが薄暗く照らした。

 

 

『けんと、くん......』

「さっきの意味、もっと知りたい?」

 

 

ここで頷けばこの後はどうなるか、なんて子供じゃないんだから分かってる。一度目を閉じて脳裏に浮かんだのは、勝利と過ごした時間、......ではなくさっきの健人くんの表情。
ああ、堕ちてしまう。

 

 

『教えて、、』

 

 

さっきの意味だけじゃない。悪いのは応じたわたしか、誘った健人くんか、それともこんな隙を作った勝利か、教えて。

 


このどうしようもなくあなたに惹かれてしまう、気持ちの訳を教えて。