ultimatelove_sのブログ

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雪降る世界で

 

 

脆く儚いちいさな世界 の続き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれほど時を重ねてもあの部屋から消えてくれなかったものが膨らみすぎた健人への想いだと気付いたのは、あの日の冷たい路上で。

 


あれから何度あの決断を後悔しても、結局あとのまつり。ずるずると引きずった未練は2年の時を経てもまだわたしを離さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

〈え!○○!久しぶり〜、大学卒業以来だよね?また綺麗になったんじゃない?〉
『もう、お世辞はいいから(笑)』

 

 

くすくすと口許を押さえれば袖のフレアが尾びれのようにゆらゆらと揺れる。同じ母校である健人ももしかしたら、なんて淡い期待は煌びやかに着飾ったブラックのドレスワンピの下に隠す。

 


長針が2周回ってもドラマみたいな展開は起こらず、思わず溜息をそっと吐いたその時。湧き起こった歓声に心臓がきゅっと小さくなる。恐る恐る振り返ったそこには、人垣の中心で少しだけ困ったように眉を下げはにかむ健人の姿。

 

 

『、健人......』

 

 

か細い声で吐息混じりに呟いた声は届くはずもない。また少し痩せた?、金髪やめたんだね、やっぱり黒も似合ってる、どんな風に歳を重ねたらそんなに格好良くなったの?、......右手の薬指に光るそれは、誰の薬指と繋がってる?

 


ずきん、と傷んだ胸はもう健人が手に届かない場所へと行ってしまったことを残酷なまでに知らせる。そもそも、わたしが釣り合うような世界の人でもないんだから、最初から指先さえも彼に届いていなかったのかも。

 

 

〈ねーえ!○○聞いてる?〉
『あっごめん、、なんだっけ』
〈だからいい人とかいないの?彼氏とかさあ〉
『あー、それが全然で』

 

 

聞こえるはずもないのにそっと健人の方に目線をやれば、一瞬にして氷のように固まってしまう。なんで今、目が合うの?いつからこっちを見てたの?、下唇を噛んで動揺を押し殺すわたしは健人の瞳にどんな風に映ったのだろうか。

 


何秒そうしていたのか、呆気なく目線が外されればナイフで抉られたような衝撃が走った。......そうだね、もう興味なんてあるはずない、ただの偶然でしか、ない。目に張った水膜にごめんちょっと、と言い残し慌てて外へと逃げ出す。庭で愛らしく咲いた色とりどりの花が風に吹かれ、ひらひらと片鱗が舞った、その時。

 

 

「良かった、いた」
『っ、え......なんで、』
「帰ったのかと思って焦っちゃった」

 

 

少し前髪が乱れた様子を見る限り走ったのだろう、なんでそこまでしてわたしを追い掛けてくれたんだろう。頭の中でぐるぐると彷徨った疑問は唐突に頬に触れた健人の手によってぱちん、と弾けた。

 

 

「2年の間でさらに綺麗になったね」
『!け、健人も、かっこよくてビックリした』
「......ねえ○○、」

 

 

2年振りに呼ばれた名前にどくん、と大きく心臓が跳ねる。と同時にあの日の惰気が含まれた声色を思い出して古傷がジュクジュクと痛んだ。

 

 

「誰がそんな風に○○を綺麗にしたの?」

 

 

その答えは至って簡単で。いつかまた逢えるかも、なんて一縷の希望であなたと他でも無い自分の為に努力したんだよ、そう素直に吐き出せたらどれほど楽なんだろう。

 


結婚適齢期だというのに、あれから誰とも付き合えていない。だって、健人以上の人なんてこの世界中探しても見つからないことを嫌ってほど知ってるから。そんなわたしの重すぎる愛はきっと、もう既に誰かの愛でいっぱいのあなたは受け止められない。だから曖昧に微笑んではぐらかすのが、今のわたしの最大限の答え。

 

 

『もう、健人は相変わらずだね?(笑)』
「、ん、そう?(笑)あ、そういえばさ、○○の物まだ家にあるんだけど今から時間ある?」

 

 

どうしよう、彼女さんに悪くないかな、一瞬考え込んで結局こくりと頷いてしまったのはきっと人間の性。理由があるとは言え好きな人の家に誘われて断るなんて、...もう二度と会えないかもしれないのに、そんなのできっこない。

 


2年前と同じように車の後部座席へ乗り込めば、運転中の健人とバックミラー越しに微笑み合う。そういえば、いつもこうやってたな。

 


窓の外のネオンは幾つもの線を夜に描いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


「ごめん、散らかってるけど、」

 

 

2年振りに入った部屋は、綺麗好きの健人にしては物が乱雑に置かれていて少し驚く。前はリモコンの位置まできっちり決めてたのに。恥ずかしそうに片付ける健人の顔にはファンデーションでは隠しきれないクマが薄らと見えた。

 

 

『最近ちゃんと休めてる?』
「あー、、あれからあんまり寝れないんだよね」
『あれからって?』
「ん、○○がいなくなってから」

 

 

ぴたり、と止まってしまったのは触れてはいけないと思っていた話題のせいか、それとも柔らかく手首を掴んだこの掌のせいか。真っ直ぐにわたしを射抜く瞳の縁は、あの日のようにじんわりと赤みを帯びていた。

 

 

「ずっと謝りたかった、...いつの間にか隣に○○がいることが当たり前になって大切なことたくさん忘れてた、......ほんとにごめん」

 

 

俯いた髪がさらり、と揺れずっと忘れられなかった香りが届く。心臓の奥底をぎゅ、と掴まれれば、健人が引き出しから小さな箱を取り出す。ぱか、と開けられた正方形の中で輝くそれは彼の薬指を結ぶ対の輪っか。

 

 

『えっ、それ......!』
「ん、と、...渡したかった○○の物って実はこれなんだよね、本当は5年記念日の時に渡す予定だったんだけど」
『だって、わたしに飽きたんじゃ、...』

 

 

え、とまんまるに目を見開いた健人が一度だけ瞬きをする。長い睫毛が揺れればくす、と笑みを零した。

 

 

「俺の愛が重いの忘れた?今も昔もずっと俺は○○に夢中だよ、この2年一度だって○○のこと忘れられなかった」

『ッ、、!』

「もう一度やり直して欲しい、...やっぱ俺、○○の隣じゃないとダメだわ」

 

 

細身の身体の割にしっかりとした胸に抱き締められれば、2年分の積もった恋心が頬を伝う。

 


きっとやり直せる、今度はもっと素直になろう、たくさんの言葉を紡ごう。もう二度と、離れることのないように。

 

 

『健人、』
「ん?」
『......ふふ、だいすきだよ』
「、〜!お前それ反則すぎ、」

 

 

耳まで紅く染めた健人を横目に指輪をはめればお揃いの愛の証が2人を結ぶ。ゆっくりと近付く感覚にそっと瞼を下ろせば柔らかく甘い感覚が唇に触れた。ちゅ、とリップ音をたてて離れたのも束の間、再度重ねられたそれはどんどん深くなって。2年を埋めるように互いの舌が貪欲に絡まり合い、やっと離れた頃にはいつの間にか視界には天井と瞳に情欲を揺らす健人の表情。

 

 

「あれから他の男にこんな可愛い○○見られた?」
『誰ともキスなんてしてないよ、...健人以上の人なんていないもん』
「はあ、良かった、、マジで泣きそうだった(笑)」

 

 

安心したようにくしゃ、と顔を歪める健人が愛らしくて手を伸ばせばそのまま抱き上げられる。きゃあ、!と素っ頓狂な声を出し目を白黒させるわたしを見て悪戯っぽく口端が上がる。

 

 

「さらっと可愛いこと言っちゃう○○が悪いんだから今夜は覚悟してね、ただでさえ余裕なんかないから」

 

 

こっちだってそんなクラクラするほどかっこいいこと言われて、余裕なんて無いんだから。

 

 

寝室に飾られていたスノードームは、小さな家に幸せそうな温かな光が灯っておりつい手に取って逆さまにすれば小さな世界が一気に輝き出す。俺のことも見て?、と優しく奪われたそれは健人の掌の中でキラキラと雪を降らせた。

 

 

『......やっぱり幸せ、』
「ん、俺も幸せだよ」

 

 

 

 

 

 

 

end ☃︎