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Honey boy Ⅰ



犬系健人くんに愛される。微裏。














授業の終了を知らせるチャイムが鳴ると同時に教室に入れば教授に睨まれる。

ですよねー、本当はもう少し早く着く予定だったんです、と心の中で言い訳をしながら一応の謝罪の意味を込めて頭を下げた。



「はよー、○○」
『あ、風磨おはよう〜!ね、あのさ、』
「はいはい、代返しましたよ」
『わー!もう風磨最高!流石学科一モテる人は違うわ〜!』



男友達の風磨は面倒見が良くて偶にこうして遅刻や欠席をしてしまう私のレジュメを取ってくれたり代返をしてくれる何とも頼もしい友人。調子の良いことを言い重ねて巫山戯出す風磨と遊んでいれば後ろからどんよりした雰囲気が伝わってくる。どんよりというか、これはもうあれだ。犬が拗ねている時と同じ雰囲気。



「○○ちゃん、おはよ...」
『健人おはよう、どうしたの?』


分かってはいるが一応とぼけてみると、いきなり私の服の袖を掴んでぶんぶんと降り出した。


「もう!分かってる癖に!」
『えー、なんだろ?』
「、○○ちゃんが2限遅刻する時は...、あー!もう本当嫌なんだけど!もうなんで!」
『朝から健人はキャンキャン煩いなあ』



私が2限から遅刻するのは決まって昨晩誰かと夜を過ごした時。体力があまりないのか、それとも行為の激しさからか、はたまた朝から身体を重ねてしまうせいかどうしても2限の時間に間に合わずお昼から行ってしまう。



これがバレたのは風磨と健人の3人で宅飲みした時。自分の家だからということで私はかなりお酒を飲んでいて、つい何時もだったら答えないような事にも口を開いてしまったんだ。


「あんさ、ずっと○○に聞きたかったことあるんだけど、お前2限間に合わない時ヤってんだろ(笑)」
『、へ?!』
「えっ、」



私にはセフレが数人いる。でもそこには恋愛感情は一切ない。ただ女の子でも溜まってしまう欲の解消と寂しさを埋めるだけの行為。でも誰と肌を重ねても余計に寂しさが積のるだけで、早く辞めなきゃなあと思う反面今更関係を切るのもまた寂しくてズルズル続いている。


「しかも何人か男いるっしょ?セフレ?」
『〜〜、はあ、もうやだ!風磨すごすぎなんだけど!探偵じゃん(笑)』
「、彼氏じゃ、なくて?」
『ん、付き合いたいとは思わないんだよね』


バレてしまった事が恥ずかしくて何で分かったのか問いただす。"香水の匂いが毎回違うから"、としたり顔の風磨が答えればそれが可笑しくて。"本当に探偵になれるじゃん!ね、健人?"、と笑いながら肩を叩けば健人の表情にその手がぴたりと止まった。



絶望したような、まるで好きな人に振られた時の表情。その時分かった。

健人は私のことが好きなんだ、と。



その次の日、1日中明らかに落ち込んでいた健人に呼び出された。


「あの、さ、...○○ちゃんのことが好きです、俺と付き合ってくれませんか、?」
『健人...どうして?昨日あんな話、』
「○○ちゃんが今まで誰と、とか、...正直ちょっと気にしてたけど、でも!○○ちゃんへの気持ちは変わらないから」


真っ直ぐな視線に耐えれなくてぎゅ、と拳を握り締める。健人のことは大好き。でもそれは人としてであって、正直に言ってしまえば恋愛対象で見た事もなかったし、わんこみたいな感じは可愛いけどタイプではない。

ごめんなさい、と告白の返事をすれば苦しそうな顔をして今にも泣きそうなうるうるとした瞳でじっとこちらを見詰められて。


「、理由聞いても、いい?」
『えっ、と、...健人のことは大好きだけど友達としてしか見た事無かったから、』
「!じゃあ頑張る!男として見てもらえるように!それなら俺にもチャンスあるよね? 」


前のめりに身を乗り出して表情を伺う健人はやっぱりわんこみたいで。その勢いに思わずこくり、と頷いてしまう。


それからというものわんこによる、じゃなくて健人による怒涛の好き好きアピールの毎日が続いている。





「○○ちゃん、明後日デートしよ?」
『ええ?先週も映画行ったよ?』
「だって一緒に居たいんだもん、ね、いいでしょ?」


横に頬杖をついて上目遣いで顔を覗き込む健人はかっこよくて。勝手に胸がドキ、と音を立てる。健人は本当に綺麗な顔でおまけに優しい。そのため風磨と肩を並べるくらい女子からの人気が高い。例えタイプじゃない男友達だとしてもこれ程までに顔が整っていればときめいてしまうのが女心なんだから全く仕方ない。


『ん〜、』
「お願いお願い!デートしてくれないと今からもう拗ねるから!」
『なにそれ(笑)わかったわかった、考えるね』


考える、と言っただけなのに健人の後ろにはぱたぱたと振る尻尾が見える。そのままわんこが"飲み物買ってくる!"と走って行けばずっと黙って会話を聞いていた風磨が口を開く。


「で、いつ中島と付き合うの?」
『そんなこと一言も言ってないけど、』
「はあ〜?あんだけ尽くされてんのにまだ足りねえの?我儘な女だなァお前は」
『そんなんじゃないし!』



別にもっと尽くして欲しいとかそんな事は思ってない。寧ろ健人の気持ちを知って側にいるのに他の男に抱かれる私になんか尽くさなくてもいいのに。健人はいつも"○○ちゃん○○ちゃん!"と優しくしてくれる。たまに寂しそうな色を黒い瞳に滲ませながら。


「...ま、そろそろさ、ちゃんと考えてやれよ」
『ん、、健人のこと大好きなんだけどね、優しいし何だかんだ可愛いし。でも私タイプに合わないと恋愛対象として見れないんだよね...はあ、どうしよ、』
「そもそも○○ってどんな男がタイプなの?」
『余裕と色気がある男の人かなあ、見た目も可愛い系よりはちょっとチャラい方が好きだし、まあ後は.....色々、?』


最後の項目は大学内で言えるものでもなくて濁せば風磨がニヤニヤし出す。じろり、と威嚇の意味を込めて睨めば、"あー、えっちが上手い人ね、ハイハイ"と言う風磨の直球な言葉に頬を膨らまして肩を強く叩いた。


この時、健人がこの会話を聞いていたなんて。血が滲んでしまうくらい強く唇を噛み締めていたなんて、知りもせずに。





翌日、昨日とは打って変わってちゃんと余裕を持って2限から出席できることに小さな達成感を感じる。


2限の時、いつも健人は不安そうにキョロキョロしながら教室に入って来て。その姿に手を振ると、ぱあっと表情が明るくなって隣にすっ飛んでくる。

今日も喜んでくれるかな、なんて心の何処かで楽しみにしている自分に気付く。あれ、?という小さな違和感に小首を傾げると静かな教室に似つかわしい黄色い歓声が響いた。



「え、待ってやばい!かっこよすぎる!」
「嘘!元々だけど、更にかっこよくない?!」
「え、お前中島だよな?(笑)」

状況を理解する前に聞き慣れたその名前に反射的に振り返った。

「いや、そうに決まってるじゃん(笑)」



そう笑うのは紛れも無く健人で。
しかしそれを疑う程に昨日までとは全く異なる雰囲気を纏っていた。
これまでのパーカーやTシャツのような可愛らしい服ではなく、襟元が開けられた派手目の柄シャツ。その上に黒のジャケットを羽織る彼は綺麗な透き通るような蜂蜜色の髪をしていた。


一気に女の子達に囲まれた健人と隙間から目がばち、と合う。するりと抜け出した健人が目の前に来て目が離せない。

可愛らしい雰囲気を覆い隠してしまう程の妖艶さと色気に思わず胸が高鳴り頬に熱が集まる。あんなに恋愛対象として見れないって言ってたのに、こんなタイプど真ん中になるなんて。



「おはよ、○○ちゃん」
『え、あ、健人おはよ...どうしたの、?』
「んー、ちょっとね、どう?」
『、すっごく、かっこいいよ』
「そ?ありがと」



さらりとお礼を言った健人はまた女の子の群れへと戻って行く。え、それだけ?何で?と拍子抜けすると同時にモヤモヤする。その正体はきっと嫉妬。先程の違和感と合わさって大きくなったそれは今頃になって私に告げる。

確かにタイプでも恋愛対象でも無かったけれど、気付かなかっただけで少しずつ好きになっていたのかもしれない。
それがこんなにドキドキさせられたのだから、自分の気持ちに気付いてしまったんだ。


健人のことが、好きだと。



「○○ちゃん、どうしたの?」
『わ!?っ、健人、』


ぐるぐると考え込んでいればいつの間にか健人が隣に座っていて吃驚する。もし今、この機会を逃してしまえばずっと後悔することになるかもしれない。そう思ってごくり、と喉を動かした。


『あのさ、昨日のデートの約束ってまだ有効かな、?』
「、!もちろん!」
『よかったぁ、...楽しみにしてるね』
「ふふ、俺も」


その日の夜は明日が楽しみで中々寝付けなかった。久々だった、こんな風に誰かと肌を重ねなくても心臓の奥がぎゅん、と握られているような夜は。寂しくない1人のベッドは。





デートの日、待ち合わせ場所に佇む健人は昨日に引き続きお洒落なシャツに身を包んでいる。肩を叩いて声を掛ければ全身を一瞥し、"今日の○○ちゃんも可愛い"と甘い言葉をくれる。


恋は不思議だ。


今まで何度も友人として言われた可愛いも勿論嬉しかったけど、その人を好きだと自覚するだけで何十倍もその言葉が嬉しいのだから。



『すっかり暗くなっちゃったね〜』
「もう21時だしね」



今日を締めくくるような会話に寂しいなあ、とぼんやり思う。健人とのデートはいつも楽しくて時間が過ぎるのが早い。そろそろ帰るかな、と見上げれば健人も此方を見ていたらしく視線が絡んで何だか気恥しい。


「ね、○○ちゃん、昨日から俺の事男として意識してくれてたりする?」
『っ、』


まんまと言い当てられ瞳が揺れる。こんなに動揺してしまえば、問い掛けの答えはYESだとバレてしまう。いや、既にこの問い掛けの前にはバレているのかも。気持ちを見透かされそうでそっと視線を外そうとすれば顎に細長い指がかけられた。


「駄目、逸らさないで」
『けん、と、』
「質問の答えは、YESでいい?」


こくり、と頷けば健人の香りが一層濃くなって抱き締められたことに気付く。懐っこい笑顔や多めのスキンシップは今までの可愛い健人のままだけど、昨日から容姿だけでなく態度まで大人っぽい健人について行くのが精一杯で。それでも何とか想いを伝えなきゃ、今まで想いを伝え続けてくれた健人に失礼だと言葉を紡ぐ。



『あのね、一気に健人が色っぽくなったし前以上にかっこよくなって、正直すごくタイプだなって。でも、!ちゃんと前から健人のこと好きだったと思う...健人の優しい所も可愛い所も、すき、』
「、ほんとに?」
『うん、本当』
「ほんとのほんと?」
『ふふ、ほんとのほんと』


きょとんとしたかと思えば急いで喋る健人はやっぱり可愛くて思わず笑えば、あ、と口を抑える。



「あ、やべ、...はあ、○○ちゃんのタイプになりたくてイメチェンしたり色々したんだけどやっぱだめだ、」


"ていうか○○ちゃんがいきなり可愛い事言うから!"と、頬を膨らませる健人に首を傾げる。あれ、私健人にタイプ言ったっけ?そんな疑問に気付いたのか、ああ、と苦笑いする。


「昨日菊池と話してたの聞こえて、」
『!そうだったんだ、じゃあイメチェンって私のために?』
「○○ちゃんの為っていうか自分の為かな?少しでも○○ちゃんに男として意識されたかったから、」



健人の健気で一途な想いに心臓が鷲掴みにされる。こんなに愛してくれる人、きっと他に居ない。



「あ、そういえばさ、他にもタイプあったよね?」
『え?』



その言葉に風磨の言葉を思い出す。

えっちが上手な人。

確かに身体の相性だったり何だったりは付き合う上で大事な事だと思って重視してるけど、いきなりその事を話題に持ち出されるのは恥ずかしすぎる。どうにか場を誤魔化そうと適当に口を開けば、人差し指が唇に当てられ2人の間を静寂が包む。



「試してみよっか」
『、なに、を』



口端を上げる健人の上には細い三日月がぽかりと浮かぶ。綺麗、と場違いな事を思わず考えてしまう程に儚くて美しくて。魅了されていれば吸い寄せられるように唇が重なった。ちゅ、ちゅ、と下唇を啄まれ心地よくなれば、とんとん、と舌で入口をノックされる。迎え入れた健人は甘く絡まりキスだけで熱く溶かされてしまう。



「俺と○○ちゃんの相性」


健人の罠にまんまと嵌ってこれから私は緩やかに堕ちて行くのだろう。
わんこは、甘く牙を剥く。








to be continued ‪‪❤︎‬