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角砂糖を溶かして

 

 

アイドル健人くんと大学生ちゃん。甘々。
2019.09.18 執筆
2019.12.08 大幅加筆修正

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、俺本気だよ?」

 

 

普段話す時よりも少しトーンが低く柔らかい声が耳を擽る。咄嗟に逸らした視線を許さない、というように綺麗な手が頬に触れる。けど、その手は優しくて。甘く、それでいて支配的な中島さんに頭がクラクラした。

 

 

『え、と、、あの、冗談は、』
「だから本気なんだってば、本気で○○ちゃんのことが好きなの」

 

 

 

 

中島さんは凄く優しくて。それはもう、みんな勘違いしちゃうんじゃないかって思うくらい。...でもわたしはたかがテレビ局内の小さなカフェでバイトしている大学生。かたや中島さんは"次世代王子様"、なんて肩書きで世間に人気のアイドル。

 


少し彼が優しいからってそんなドラマみたいなことある訳ない。自惚れるな、わたし。
そう思っていたばかりに、この状況が一切掴めない。

 

 

 

 


中島さんとの出逢いは4ヶ月前に遡る。

 


普段はスタッフさんがカフェまで買いに来て出演者さんにお届けする手筈で。けれど、その日はどうやら出演者さんのドタキャンがあったらしく、スタッフさんは大忙し。ボヤキと共に楽屋に直接コーヒーとスコーンのデリバリーを頼まれたんだっけ。

 


新人のわたしはイレギュラーなデリバリーは初めて。ドキドキするなあ、誰がいるのかな?もしかして俳優さんとか?なんて、ミーハー心が少しだけ踊るのをぐっ、と抑え、こんこん、と楽屋をノックする。

 

 

「はい、」
『カフェdestinです!ご注文のコーヒーとスコーンのお届けに参りました』
「あ、ありがとうございます、どうぞ」

 

 

近付く声と同時にガチャ、と音を立て開いた扉の向こう。

 


...あ、SexyZoneの中島健人さんだ、綺麗な顔、、初めて生でジャニーズの人見た、......ってだめだめ。お給料貰ってるんだからちゃんとやらなきゃ。

 

 

『ありがとうございます、わざわざ開けて頂いて、、こちらご注文のお品になります』
「いえいえ、重いのにわざわざこちらこそありがとうございます」

 

 

その時、視線がばちっと合わさった。やっぱり近くで見ると想像以上にキラキラしてかっこよくて、ほんと、世界が違う。そう思って思わず目を逸らす。用は済んだし早く出なきゃ失礼だよね。業務的な挨拶をし踵を返せば、"待って、"という声に引き止められる。

 

 

「初めて見かけたんだけど、もしかして新人さんですか?」

 

 

予想だにしない問い掛けに、"えっ、あ..."、と動揺してしまいこくこくと頷くのが精一杯。"大学生さんとかですか?"、続いた彼からの質問にはい、とだけ返せたその声は思わぬ展開に緊張で震えていた。

 


恥ずかしくて、かあ、と一気に頬に熱が集中するのが分かって。もう、静まれ静まれ...!そんなわたしにくすり、と優しくあまい砂糖菓子のように笑みを零した彼はこう言ったんだ。

 


「...可愛いね」って。

 

 

『へ、?!あ、あの、...し、失礼しました!またのご利用お待ちしております!』

 

 

勢い良くお辞儀をして逃げるようにバタバタと早足でカフェに戻る。どうしよう、中島さんの甘い声がまだぐるぐる頭の中で再生される。さっきの出来事は現実だ、というように心臓が煩く音を立てた。

 


あんなかっこいい人に可愛いって言われたら絶対みんな心臓壊れちゃうよ...!もう二度とない貴重な経験だったな。はあ、ドキドキした、、

 


そう思っていたのに。

 

 

「1週間ぶりだね!あ、今日はポニーテールだ」
『、、あの、どうして...?』

 

 

滅多にないデリバリーが1週間後にまた、ってそんなことあるの?しかもスタッフさんに聞いたら今日は何のトラブルも無いみたいだし、、
疑問に思わず首を傾げる。

 

 

「だってこの前名前聞きそびれちゃったから」
『えっ、名前、ですか?』
「そう、君の名前、教えてくれない?俺は中島健人って言います」

 

 

もちろん存じ上げております。だってあれから中島さんの出演するテレビや雑誌が何だか目に入ってきて、その度にドキドキして困ってますもん。......なーんて、絶対言える訳ない。

 

 

「名前、教えてくれる?だめ?」

 

 

仔犬みたいなきゅるきゅるとした上目遣いで視線が絡む。今度は声が震えないように、精一杯の平常心を取り繕う。

 

 

『えっと、××○○っていいます』
「○○ちゃん、...名前まで可愛いんだ」
『え、ああああの、!中島さんの方が可愛いと思います!』

 

 

何言ってるのわたし、成人済みのほぼ初対面の男性に可愛いはない、絶対ない。それにまた吃ってるし、、

 


いきなりの言葉に中島さんはきょとん、とした後くすくす笑って。

 

 

「○○ちゃんって面白いね、あのさ、今度から時間があったら楽屋まで○○ちゃんが持ってきてくれない?」
『......大丈夫なんですけど、あの、どうしてか聞いてもいい、ですか、、?』

 

 

んー、とテーブルに頬杖をついた中島さんは何だか楽しそう。答えを待って思わずじ、っと見詰めてしまう。

 

 

「○○ちゃんのことがもっと知りたいから、かな?...○○ちゃんのこと俺にたくさん教えて」

 

 

なんて魅惑的な表情で甘い台詞を言う人なんだろう。中島さんは、ずるいくらいに甘くて優しい人だった。

 

 

それから約束通り、1週間に一度、木曜日。中島さんの元へコーヒーを届けに行くことがわたしの仕事に追加された。前みたいに緊張して話せるか不安だったけど、中島さんはそれをきっと分かってて。近況報告やメンバーさんの面白い話をしてくれたり、わたしについての質問や中島さんについてもたくさん教えてくれた。

 

 

中島さんと不思議な関係が続いて4ヶ月、分かったことがある。

 

 

〈健人くんってほんとかっこいいよね、王子様みたい、気遣いもすごいしさ〉
〈お、あんたも健人くん狙い?〉
〈ってことはライバル沢山いるんだ〜、、彼女とかいるのかな〉

 

 

中島さんはとてもモテる、ということ。その容姿や性格からして当たり前で。モテない訳がないんだけど、その勢いは想像以上。いまお手洗いで彼を噂するアイドルの女の子たちや、楽屋で話している時に入って来てわたしを睨んだスタッフさんも、きっと彼に好意を抱いてる。

 


そう思うと、彼の優しさや言葉はみんなに向けられたものだと分かった。中島さんはわたしが好きになっちゃ、駄目な人なんだ。ゆっくりと少しずつ芽生えていた淡い芽に水は、やれない。

 

 

「あっ、○○ちゃん!......あれ、髪染めたよね?!」
『中島さんこんにちは、そうなんです、秋なので茶色もいいかなって、』
「うん、すっごくいい、可愛い!○○ちゃんによく似合ってる、ほんとに可愛いね」

 

 

アッシュブラウンに染まった髪を綺麗な細長い指がさらさらと梳かす。そうして、中島さんはまたわたしが喜んでしまう嬉しい言葉をくれる。胸の高鳴りと火照った頬を誤魔化すように少し俯けば、さらり、と髪が揺れた。

 

 

『もう、中島さんはすぐそうやって揶揄うんですから』
「揶揄ってなんかないけど」
『だ、だってすぐ、、か、可愛いとか、』
「○○ちゃんが可愛くて、思ってるから言うんだよ?」
『〜!ほら、また!』

 

 

優しく細められた瞳が擽ったい。顔にかかった髪をそっと耳に掛けられれば、中島さんの指が耳に触れて。...こんなの意識しないなんて、むりだよ、、

 

 

「......そんな顔されたら俺どんどん○○ちゃんのこと好きになっちゃうんだけど」

 

 

中島さんの言葉に思わず目が泳ぎ、動揺する唇を噛んでしまう。そう、彼は最近こうしてたまに爆弾を落とす。

 

"○○ちゃんの笑った顔、マジで好きなんだよね"
"○○ちゃんのこと好きだから、木曜日が一番好き"

 

中島さんから好き、を貰える度に勘違いしちゃダメだと言い聞かせる。言い聞かせて、言い聞かせて、そしていつもみたいに笑うんだ。

 

 

『ふふ、んもう、中島さん!だから揶揄わないで、』
「だから揶揄ってなんかないし冗談でもない、...ねえ、そろそろ気付いてくんない?」

 

 

その真剣な表情と声色に、時が止まる。

 

 

『え、っ......あの、え、と、』
「...もしかして迷惑だから気付かないフリ、とか?」

 

 

不安そうにする中島さんの表情に嘘や冗談は見えない。じゃあ本当に中島さんはわたしのことを、......いやいや、ええ?

 


混乱して黙っているのを肯定だと勘違いしたのか、"もし迷惑ならハッキリ言って欲しいな、困らせたい訳じゃないから、" どこまでも優しい中島さんはそう小さく呟いた。

 

 

『あの、...好きって、みなさんに言うような人としての好き、ですか?』

「え?みなさん?俺○○ちゃんにしか言ってないよ、だって○○ちゃんが好きなんだから」

 

 

余りの驚きにぱちぱちと何度も瞬きを繰り返せば鈍感すぎ、と笑われる。

 

 

「○○ちゃんのことが、女の子として好きです」
『..........ええ、?!』
「ねえ、俺本気だよ?」
『え、と、あの、冗談、、』
「だから本気なんだってば、本気で○○ちゃんのことが好きなの」

 

 

"分かるまで何度も言ってあげる"、微笑んだ中島さんに胸の鼓動は止まることを知らない。
好きになっちゃダメじゃ、なかったんだ。

 

 

『わたしも中島さんのことが、...好き、です』

 

 

2人の境界線を無くすにはこれで十分。...ううん、最初から境界線なんて存在しなかったのかも。

 


言い終わると同時に腕を引かれ、いい匂いがふわり、と香る。苦しいくらいに抱き締められるのが嬉しい。もぞもぞとその背中に腕を回した。

 

 

「...ねえ、可愛すぎ、ずるい」
『中島さんもずるいくらい、かっこいい、です』
「あ、俺の愛重いから覚悟してね」
『ふふ、楽しみです』
「......○○ちゃん、俺の彼女になってくれる?」

 

 

"中島さんの彼女になりたいです"、刹那、唇にふわりと温かいぬくもりが重なる。閉じた瞼の裏でそっと、幸せを感じた。