ultimatelove_sのブログ

@_ultimatelove_s の回避用サイト ‪‪❤︎‬

恋心、月夜は笑う




いなくなれ、恋心の続き。

















あれから1ヶ月経った今でもわたしと風磨は友達のまま、なフリをしている。



たった1回だったけれど風磨に抉ってもらった心臓はまだ癒えることなく風磨を見る度に傷口がずきずきと疼く。もっと手酷く抱いてくれればいっそのこと忘れられたのにな、なんて自分勝手なことを考えていれば折角の全休ももう夜になってしまった。



最近また暑くなった部屋にクーラーをかけ気持ちよくうたた寝していれば、唐突な着信音に身体が飛び跳ねた。




『え、なんで、』




画面に表示されているのは〝風磨〟の文字で。あの日以来1回も電話をしていないし、それどころかメッセージだって必要最低限しかやり取りしていなかったのに。躊躇いながら緑の丸をタップする。



『はい、』
「あ、○○、いきなりごめん」
『え、全然大丈夫だけど...どうしたの?』
「あー、振られた、今日暇?」



何処かで聞いたような台詞に耳を疑いながらも足はもう風磨の元へ向かっていた。



風磨のことがまだ好きなのに、正直に言ってしまえば"別れちゃえ"、なんて思う夜も過ごしたのに。嬉しいより心配が勝るのは、やっぱりわたしはまだ風磨の友達だからなのだろう。








「○○、わざわざありがと」
『ううん、それより風磨大丈夫なの?って、...大丈夫な訳ないか、』




"あー..."、と頭をがしがし掻く風磨に部屋を案内されれば1か月ぶりの風磨の部屋にまた傷口からどくどくと切ない恋心が溢れた。



1か月前と違うのは彼女の存在を感じさせる物が一切見当たらないことで。2人が愛し合い、わたしと風磨が一晩だけ共にしてしまった後ろのベッドはシーツも枕も変わっていてまるで記憶が拭い去られたかのようだった。




「久し振りだな、」
『、うん』
「ちゃんと○○の目見て話すの久々な気がする」




話してても何処と無く気まずくて何処と無く目が合わなくて。それが今もう来ない筈だった風磨の部屋に居てこうして向かい合っている。



ねえ風磨、ちょっと痩せた?元々細いのに、脚なんかわたしより細いんじゃない?やめてよね、もう。顔もちょっとやつれてる。... それって誰のせい?彼女だった人?それとも、わたしのせいもほんの少しはあってくれたり、しないね。



身体の中でぐるぐる回る言葉は零れ落ちることなく、"そうだね"、なんて在り来りな返事に代わる。机の上に用意されたわたしの好きなチュー缶はじんわりと汗をかいていて、ぽたりと雫がコースターに落ちた。



『...どうして別れちゃったの?』
「もうずっとさ、俺ら倦怠期で。3日前に彼女から別れよって言われてそれで」
『風磨はそれでいいの?』
「ん、お互いもう情でズルズル引き摺ってたから。それにあいつも気になる奴がいるみたいでさ、それ聞いた時に素直に幸せになって欲しいって思ったんだよね」



風磨の瞳は大切な人を優しく想う色をしている。そんな2人の仲にルールとモラルを破って邪魔しようとした浅ましい自分が恥ずかしくて膝の上で、ぎゅ、と掌にネイルが施された爪を立てた。



鈍い痛みを掌と心臓に感じてふと違和感に気付く。



『ん、?あいつも、って、』
「あいつに言われたんだよね、"もう数ヶ月くらいわたしに気持ち無いでしょ?"って、こんなん言わせて最低だと思うけど正直図星だった」
『まって、ふーま、好きな人いる、の?』




頭の中で紐がぐちゃぐちゃにこんがらがって解けなくなって上手く理解できない。こんな状況じゃ嫌でも期待してしまう。彼女と別れて部屋に呼んでこんな話をして、好きな相手は誰か、なんて。



ねえ風磨、一生あなたを忘れないように付けられた傷は、どうしたらいい?




「すんごいアホ面だけどどうした?あ、元々か」
『、は?!失礼なんだけど!風磨だってあざらしみたいな顔してるし!』
「あざらし可愛いじゃん?」



人がちょっとセンチメンタルな気分になっていたらこの男は。いつぶりか分からない軽口でさえ擽ったくて心臓がきゅ、と掴まれて。"あ、それに!"、とまた付け足そうとして風磨の顔を見ればその表情に瞳が揺れる。優しくて甘くてまるでわたしのことを、ーーー。




「俺も好きだよ」
『、え』
「あの日の返事、伝えるの遅くなってごめん。たくさん傷付けてごめん、本当はずっと○○が好きだった」
『うそ、だ』



"こうしたらさ、信じてくれる?"


言葉と共にふわりと風磨の手が頬に触れる。目をぱちり、と一度瞬きをすればもう二度と重なることの無かった筈の唇が重なった。



「友達じゃなくて○○の彼氏にしてくんない?」




返事の代わりに二度も三度も愛おしい人に口付けすれば、あの日わたしを許してくれたお月様がぽっかり夜に浮かびながら星を隠して笑っていた。