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アルコールに火を点けない




健人くんに支配される。微裏。















健人くんから与えられる愛は完璧で残酷で狂気的で暴力的で逃げてしまいたいのに手離したくない倒錯した愛情だ。







「○○、ただいま」
『おかえりなさい、あれ、そのお花どうしたの?』
「○○にプレゼント、可憐な○○にぴったりでしょ?」



完璧な笑みを浮かべ歯が浮くような台詞を惜しげも無く言う健人が抱くのはスカビオサの小さなブーケ。紫色で可愛らしい見た目と相反した花言葉は〝不幸な愛〟〝わたしは全てを失った〟。
水に溺れるような息苦しさを感じながらいつも通り口角をきゅ、と上げ心底幸せです、という表情を浮かべる。そうすればほら、健人はまたいつも通り満足気だからこれが正解。



付き合って少しして気付いた、健人は異常なまでの完璧主義者だと。
そしてそれはわたしにも求められる。だからわたしは優しくて可憐で綺麗で上品で努力を怠らず家庭的でポジティブで滅多に泣くこともなければお酒も少ししか嗜まない、健人の完璧な、完璧すぎる彼女。



雑誌やラジオでよく健人が〈彼女には厳しくすると思う〉なんて発言すればファンは意外、と声を上げる。その度にわたしだけが知っている健人に浅ましい優越感を感じ、そして違和感を抱く。砂糖菓子のように甘いアイドルの健人と、苦しいまでに完璧主義な彼氏の健人、どちらを知っている方が幸せなんだろう。



「○○、ちょっと先にお風呂入りたいんだけど」
『ん、もう湧いてるよ』
「マジ?さすが俺の彼女だわ」



お風呂に入っている間、待たせないために夕飯を仕上げる。頃合を見計らって最近健人がハマっている炭酸水を上がったらすぐ飲めるように洗面所に置くのも習慣。
そしてこれも、いつものこと。



「ねえ、ちょっと付き合って?」
『うん?どうしたの?』
「バイオリン弾いて、セッションしよ」
『もちろん!健人と一緒に弾けるの嬉しいな』



うそ。最初は嬉しかったけどこんなに頻繁に弾けば今はもう特に嬉しくなんてない。わたしがバイオリンを長年習っていたことに喜んだ健人が買い与えてくれた高いバイオリンは何故だか肩が凝って仕方無くて。そんな憂鬱な気持ちを覆い隠すように弓を握る。



「何弾く?」
『うーん、健人が弾きたいものがいいな』
「じゃあ今日は宿命にしよっか」



それはこの間の特別ドラマで孤独と闇を抱える天才ピアニストを演じた際の曲で。わたしはあの美しく氷のような炎のような彼が健人の心そのものに感じた。旋律に合わせ流れるように奏れば美しい調和が生まれる。


ああ、まるでわたし達のようだ。






夜も更ければ健人が手を握りながら寝室にエスコートしてくれる。これは健人がシたい時の2人だけの合図で。



「ん、いい?」
『え、と、...も、聞かないで、』
「ふふ、かーわい」



態とらしく顔を手で覆い隠し恥ずかしがる素振りをすれば、ちゅ、と額に唇が触れる。ぺろ、と下唇を柔らかな舌が這えばくぐもった小さな声が漏れた。穢れを知らないような真っ白なシルクのパジャマのボタンがぷちぷちと外されると彼好みの薄ピンクの下着が露わになって素直に羞恥心が込み上げる。膨らみにちゅう、と吸い付かれれば紅い所有印が刻印される。


『ん、ぁ、...っ、』
「我慢せずに声出していいんだよ?」



本当は恥じらって声を抑えるのが好きなことなんて知っている。その後に声が抑えられなくなるくらいぐちゃぐちゃにするのが好きなことだって。情事の時でさえもわたしは健人の求める彼女像を演じる必要があるのに、それでもやっぱり彼から与えられる愛も快感もわたしを昂らせるんだから女はなんて怖い生き物なんだろう。



「、○○、愛してる」
『んン、ぁ、わたし、も、愛して、ッ〜〜〜!』
「ッハ、く、...」



0.01mmに包まれた健人の愛がわたしのナカに届けば愛を欲するようにびくびくと収縮した。健人が愛しているのが飾られたわたしで本当のわたしじゃないとしても、わたしは健人を愛してる。偽りの完璧だって、可哀想だって、誰に蔑まれようともこれがわたしの愛の形。








次の日、夜遅く帰ってきた健人からはアルコールの匂いと共に鼻につくべっとりとした甘い香りがした。勿論浮気じゃないことは分かっている。今日は以前共演した人達と久々に予定が合って集まったのも知っている。だけどこんなに匂いがつくほど近くに居たのかと思うと身体中が真っ黒に蝕まれた。



『...健人、香水臭い』
「あ、ごめん、酔ってたからタクシーまで送ってあげたんだけどその時匂いがついたのかな」
『健人がそこまでしなくても、』
「どうしたの?○○らしくないよ、俺が束縛嫌いなの知ってるでしょ」



ワントーン低く放たれた言葉に俯いていた顔を上げれば、醒めきったような呆れたような表情にナイフで突き刺されたかのような衝撃を覚える。




わたしはお酒なんてほとんど飲んじゃダメなのに、わたしのことは束縛するのに、その匂いは誰の匂い?、その人とわたしどっちが好き?、ねえ健人、本当にわたしのこと愛してる?




そんな言葉は世界に落とされることなく燻りゆらゆらと消えてしまう。



『ん、ごめんね、』
「俺こそ嫌な思いさせてごめん、...あ、そうだ、今日もバイオリン聞かせて?」
『もちろん』




ふわ、と笑えば安心した表情で健人好みの艶やかなサラサラの黒髪を撫でられる。それが嬉しくてやっぱり好きだと思うのにバイオリンを握りながら考えてしまう。




健人がいない時みたいにくたくたなTシャツに短パン姿でこの髪を振り乱して、9%のチュー缶を煽りながらボロボロと泣いて、ベランダからこの馬鹿高いバイオリンを投げながら、こんなわたしでも愛してくれる?、と問えば健人はどんな顔をして何て答えるんだろう、と。




『今日はわたしの好きな曲でもいい?』
「珍しいね、何だろ」


『〝愛の悲しみ〟だよ』




それからは一切健人の方を見ずに旋律の世界へ没頭して弾きあげた。こんなわたしのどうしようもない愛が健人に少しでも伝わって少しでもその心を甘く汚くかき乱しますように。





本当のわたしが全て失われても、これが不幸な愛だとしても、それでもわたしは、




『健人、愛してるよ』