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年上健人くんとお家デート。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


嫌な事があった。それは世界だとか社会だとか大きな世界で考えたらちっぽけな事なんだろうけど、学校という縮小された社会の中で生きるわたしにとっては確かにしんどくて辛かった。本当は嬉しくて楽しい筈のこの時間だって何処か心は晴れず、トンネルの中真っ暗になった窓に映る表情は自分でも分かるほど憂いを帯びていた。せっかく健人くんが塾まで迎えに来てくれてお家まで送ってくれてるのに、勿体ないし申し訳ない。忙しい彼との少しの時間も大切にしたいのに。

 

 


「○○ー、ママさんに電話かけて?」
『え、なんで?』
「いいから、ほら」

 

 


黄色いランプを点滅させながら路肩に車が停まる。訳も分からず"貸して?"、と手を伸ばす健人くんに呼出音の鳴るスマホを渡した。小さく聞こえる向こう側のお母さんの声は旧知の仲である久々の健人くんに喜び弾んでいる。

 

 


「あの、実は今から2時間くらい○○を借りたいんですけどいいですか?もちろん今日中に家まで送り届けるので、...ええ、いや、俺は全然大丈夫ですよ」

 

 


え、と思わず驚嘆の声が洩れる。話についていけないままにこやかな健人くんに返されたスマホを耳に当てれば"あ、○○?また帰るとき連絡するのよ"と言い残され、ツーツーと無機質な電子音が車内に響いた。エンジンをかけ再び走り出した街のネオンが落ち込み戸惑う心に似つかわしく視界の端っこでキラキラと瞬く。

 

 


『どういうこと?2時間って?』
「明日学校休みでしょ?特別に今日はこのまま俺ん家でお家デートしよっか」
『...いいの?』
「当たり前でしょ、○○は俺の彼女なんだから」

 

 


真っ直ぐ前を見詰めながらもくい、と口端を上げた横顔に心臓が小さく脈を打つ。運転しているその姿だけでいつも胸を高鳴らせているのに、"見惚れすぎ"と揶揄われ咄嗟に窓の外のネオンに視線を投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつ来ても健人くんのお家はやっぱり男の人の一人暮らしとは思えない程きちんと整頓されているし、何ならわたしの部屋よりいい匂いがする。わたし達の恋愛は秘密事だから専ら部屋で会うことが多いんだけど、こうして夜にお邪魔するのは初めて。唇を重ねるキスも、恋人だけの愛瀬も高校卒業まではしない約束があるのに勝手にソワソワしてしまうのはわたしが制服に囚われた子供だからなのかな。

 

 


「ん、おいで?」
『...恥ずかしいからここでいいよ、』
「だめ、俺が寂しいもん、ね、早く」

 

 


膝をぽんぽんとするのは最早健人くんの癖。お家ではそこがわたしの定位置で。でも今日はなんだか上手く素直になれなくてソファに沈むと、それすらも見抜いたように可愛くお強請りされる。もう、なんて言いながらも腰に腕が回され密着すれば高い体温に心の奥の凝り固まった物がじんわりと和らいだ気がした。

 

 

同世代の男の子からはしない香水の匂いに鼻を埋めるように頭を預ければまるであやす様に柔らかく髪が撫で付けられる。もっと、そう思って首の後ろに腕を回せばゆらゆらと健人くんが優しく揺れた。

 

 


「今日の○○は甘えん坊だね」
『......嫌?』
「ううん、可愛すぎて困るけど大歓迎」

 

 


その返答がかっこよすぎて困るのは全くこっちだというのに。きっとわたしの気分が沈んでいるのを察して今こうしてくれてるのに、言葉では何も聞かない健人くんの優しさがじゅくじゅくと痛みを覚える心の傷口を消毒する。あのね、と口を開いて言葉が途切れる。健人くんはもっと誰よりも大きな世界で日々闘っているのに、こんなちっぽけなわたしの悩みなんて相談していいのかな。健人くんに相応しい強い女性になりたいのに年齢の壁はいつだってわたしを阻むんだ。そして健人くんはいつだって、そんなわたしを大きく包み込んでくれる。

 

 


「もし○○が言いたくないなら無理には聞かない、でもいつも俺が○○の味方で支えになりたいって思ってることは覚えてて?」
『...うん、あの、相談しても迷惑じゃ、ない?』
「○○に迷惑なんて思うこと今もこれからもないから」

 

 


"だから安心して?"、と頬を両手で包まれその言葉が心の奥底まで浸透するように瞳を合わせふわり、と微笑む。完全に凝り固まった物が解ければ自然と口は今日の出来事をぽろぽろと語り落とした。

 

 

聞いてるよ、と言うようにうんうん、と頷きながら聞いてくれた健人くんはやっぱりわたしより1歩も2歩も進んだ考えをくれる。心の雨はいつの間にか止み、明日からまた歩き出せるように濡れた地が固まった。気持ちが落ち着けばなんだかいつも以上にたくさん甘えてしまったことが今更ながらに恥ずかしい。そろそろと膝から降りようとすれば腰に回った腕がガッチリと固まる。

 

 


「あ、用済みになったらもう俺は要らないんだー、へえー」
『!ち、違う、そういう事じゃない!』
「じゃあ大人しく抱っこされてなさい♡」

 

 


あざといくらいの上目遣いできゅるん、と潤んだ瞳にも、誰かが聞いたら砂糖を吐いちゃいそうなくらい甘い台詞にもまんまと照れてしまう。健人くんの思う壷なことは分かってるのに。ぽぽ、と桃色に染めた頬に追い打ちを掛けるように、とろとろとわたしを蕩かしてしまう声色が耳に届く。

 

 


「最後に○○が明日も頑張れるおまじない掛けてあげるね」
『おまじないって、』

 

 


きょとん、と薄く開いた唇の横、最早もう触れたんじゃないかと思うほどすれすれに小さなリップ音がなり熱が触れる。ちゅ、という可愛らしい音が耳に残って仕方ない。

 

 

ば!と熱い箇所を手で抑えれば、"卒業までお預けね"、という健人くんのお決まりの台詞に骨の髄まで悩殺された。